第8話 ある日の文芸部 後半

 会議が終わり、今はちょうど昼前。


 唐突であるが、俺はあまり文章を書いた経験がない。文芸部の文集を見るに、俺が求められるクオリティに達するには中々時間を要しそうだ。

 そこで本来は午後には解散するはずだったのだが、俺だけがしばらく残ることにした。


「戸締りとかはやっとくから、先に帰ってくれ」

「頑張ってね」

「なら先に帰るわね」

「頑張れ、誠司くん!」


 三人が去り、静かになった部室には俺一人。さっきまで聞こえなかったが、時計の秒針の音や、外からの野球部の日本語になってない掛け声が聞こえてくる。



 二時間ほど経過して、時計を見れば13時ちょうど。そろそろ空腹になってくる頃合いだ。

 時間をかけた甲斐あって、プロットがそれなりに完成した。あとは文章を書けるかどうかだ。


 ——キリがいいな。昼飯買いにコンビニでも行くか。


カバンから財布を取り出し、ポケットに突っ込む。

 キュイっとドアノブを捻って開けると、


……ドンッ!


何かにぶつかった。


「痛っ」

「うわ、すまない」


 そこにいたのは先に帰ったはずの桜木舞花。


「あれ? 桜木じゃないか。どうして?」

「まだいるかなって思ったの。お昼、まだでしょ?」

「そうだが」

「私もなんだ。良ければ、私と一緒に食べない?」

「あいにく今からコンビニ弁当を買いに行く所なんだ」

「……私が作ってきた弁当食べない?」

「俺のために作ってきてくれたのか?」

「まぁね。とは言え、大したものじゃないけど」


と、彼女はリュックから弁当箱を取り出して見せた。


「でも、どうして?」

「入学式の日のお礼。遠野君と冬原さんにはナイショだよ?」

「ああわかった。ありがたく頂戴するよ」


蓋を開ければ、そこには豊かな色彩。卵焼きに唐揚げ、ブロッコリーにトマト。


「こ、これは……」

「エヘヘ、どうかな?」

「かなり力が入っているな」

「ちゃんと頑張りました!」

「では、いただきます」

「私もいただきます」


 それらはまさに絶品だった、特に唐揚げ。


「どう? 美味しい?」


 桜木は不安そうにこちらを覗き込んでくる。——ここは素直に申し上げよう。


「……この唐揚げ」

「それ特に頑張ったんだけど、どう?」

「美味しいんだけど……」

「けど?」

「何か薬物でも入ってる?」

「なんでそんな感想になる?! スパイスだよ、ス・パ・イ・ス! お分かり?」


 桜木舞花、かなり不機嫌。


「まったく……私の研究の成果を薬物扱いしないでください、良いですね?」

「す、すまない。だが、こんなに美味しいのは生まれて初めてだよ。ありがとう」

「き、急に褒めるなし……」


彼女は頬を紅く染めた。



 夕方。

 あれから桜木は俺の文章作成の手伝いに尽力してくれた。なんでも彼女は趣味で普段から小説を書いているらしい、随分と詳しいテクニックを教えてくれた。実にありがたい話だ。


 現在は校門前。俺と桜木が並んで歩く。


「今日は助かったよ、ありがとう」

「良いんだよ、別に。私がやりたくてやったんだから」

「そうか」


 夕陽が彼女の顔を紅く染める。


「あのさ、石宮くん」

「なんだ?」

「わ、私と……」


俯いてしまって、表情があまり読み取れない。紅くなった頬と震える唇だけが見える。


 おい、これってまるで——


「あのさ……わ、私とさ……」


——まるで告白ではないか!?


「わ、私と——」


ゴクリ……


「わ、私と一緒に文化祭回らない?」


……は?

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