第4話 冬原智雪は面白い奴である。前半
日本の春の天気は変わりやすい。どう言う訳か今朝は快晴だったのに、夕方には滝のようになっている事なんてある。
俺は昇降口で絶望していた。目の前の大雨を前に、傘を持たない男はどうやって帰宅せよと?
ここは仕方ない。図書室で雨宿りしよう。
そんな経緯で文神高校一階の最果てにある図書室へやって来た。広々とした空間と多数の本棚、自習スペースと、中々にコンテンツは充実している。
少し歩き回ってみれば、新聞や雑誌までも置いてある。
——税金払っているんだから、元を取らないとな。
唐突であるが、俺もそこそこ本を読む。最近の流行はハードボイルドだ。
ハードボイルドコーナーまでやって来た。ふむふむ、中々に揃っている。全て読み尽くすには三年は掛かりそうだ。
「あ、石宮君」
と、不意に涼しげな声がした。見れば、先日入部してくれた冬原智雪嬢がいらっしゃる。その手には分厚い本が。
「ああ、冬原さんか。その分厚いのはなんだ?」
「ガーデニングについての本よ。石宮君は何を読むの?」
「まだ決めてないんだ。こうも本が多いと中々決められなくってね」
「そう……じゃあこれはどう?」
と言って彼女が本棚から取り出したのは『緋色の研究』と題された文庫。
「なんだそれ?」
「シャーロックホームズ。ハードボイルドとは少し違うけど、石宮君なら楽しめると思うわ」
「なるほど。少し借りてみるか。ありがとう」
俺はその文庫を受け取ると、司書の所へ向かう。
「あの……ところで、私と少しお話しして行かない?」
「構わないが……」
「じゃあそれを借りたら、談話室にいきましょ?」
我が文神高校の図書室でも当然、私語は慎まなくてはならない。しかし学生がグループで調べ物をする際、それでは不便だ。そこで図書室の隣に談話室というスペースが設けられている。
談話室に入ると、中は誰もおらずガランとしていた。奥には大きな一枚窓ガラスが備えられ、開放感ある雰囲気になっている。外は相変わらず土砂降りだ。
「冬原さんは普段図書室にいるのか?」
「ええ、まあ。兼部している新聞部が休みの日は図書室で自習するか、本を読んでいるわね」
「へー」
俺と冬原は向かい合うようにして席に座る。四人席なのに二人で占領するのはどうも慣れない。
「ところで何か話したい事があったんじゃ?」
「ええ。まずは文芸部についてだけど、
「彼杵? ……誰だ?」
「部活動委員会の顧問よ」
「なるほど。と言うことはそれは朗報だな」
「ただし六月までに部員が四人揃わなければ、予算は出ないとの事」
「構わないだろ」
「いいえ、困るわ。三島先生いわく、文芸部は本校創立以来の歴史があって、毎年文集を文化祭で発売しているの」
「なるほど、その予算が出なくなっては困ると」
「理解が早くて助かるわ。あいにく、私の友人には部員になってくれそうな子がいないの。そちらは?」
「こっちもアテはないな」
「そう、残念ね」
俺も遠野も友達が少ないし、その数少ない友人ですら、もうとっくにどこかに入部してしまっている。
ふと桜木舞花の存在が頭によぎったが、二週間近く話していない相手だ。やめておこう。
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