第3話 文芸部の復活
入学式から一週間が経過した。
あれから桜木舞花とは一切会話していない。まあ、あんな美少女と俺とではつり合わぬだろう。
俺はどこかそんな風に諦め始めていた。
現在は放課後。
教室にて遠野と部活について話している。
「僕ね、部活なんてやらないって言ってたでしょう? いや、食わず嫌いって罪だね!」
「なんだよ、勿体ぶらないで話せよ」
「僕はね、将棋部に入る事にしたよ」
なるほど確かに遠野は将棋が得意だった。
「よかったな、入りたいのが見つかって」
「誠司はどうなの? やりたい部活、見つかった?」
「まだだな。この学校の部活はどこも活発でな」
「あまり忙しいのは嫌なの?」
「まあ、そうだな」
俺は多分どこか怠慢な所があるんだと思う。
どこかに週二日くらいの軽い部活はないだろうか、と思っていると
「君たち、なんの話してるのかしら?」
と、担任の三島詩織先生。
「ここの石宮君がどの部活にしようか決め兼ねてるんですよ」
遠野の女性恐怖症は教師には無効らしい。
「そうなの?」
「そうですね」
「ならさ、文芸部なんてどうかな?」
「先生、国語科ですもんね」
「うーん、どうしようか」
俺が悩む素振りから脈アリと見たか、先生は続ける。
「あのね、実は文芸部、去年の卒業生が最後で、現在部員ゼロなんだよね。だから今年部員が入らないと廃部になっちゃうの」
「なるほど、廃部に……」
まてよ。部員が俺だけとあらば、予定は自分で決められるんだよな?
「先生、俺、やりますよ」
「ありがとう。でもね部活の存続には、部員が最低四人必要なのよ」
「まずは四人のメンバーを集めないといけないんですね」
「そうなの」
「そう言うことなら兼部になっちゃうけど、僕もやりますよ」
「二人ともありがとう。文芸部の部室はわかる? 部室棟三階の一番奥よ」
♢
部室棟三階西側の最果てに文芸部の部室はあった。
ガチャリと扉を開けると、中は酷く埃っぽかった。
「ゲボッ、ゲホッ! ……こいつは酷いな。遠野、そっちの窓頼む。俺は廊下の方を開ける」
「了解」
部室の中には二畳分程の長机と折り畳み式の椅子が数脚、ぎっしり詰まった本棚と清掃用具のロッカーが置かれていた。
窓からは川が見え、そこには綺麗な桜並木が連なっている。
「悪くないな、眺めは」
「誠司、まずは部員を集めなきゃならないんだよね?」
「そうだよ。部室は他の部だって欲しがってるだろうし、早い事解決した方が良いだろうな。だが、まずは掃除しようぜ」
「そうだね」
二人で分担して清掃をしていると、不意に
「あの、ごめんください」
と風鈴を思い起こさせる、落ち着いた声がした。
入り口にいたのは、雪女の様な白い肌と切れ長の澄んだ目をした黒髪ロングの女。まつ毛が長く、鼻がスッとしていて美しい顔立ちだ。
大和撫子とはこう言うやつを指すのだろう。
「どうしましたか?」
「ここって文芸部ですよね?」
チラッと上履きを見て、彼女が同じ一年生である事に気がつく。
「そうだが、それが?」
「廃部になったんじゃありませんか?」
「部員が四人揃えば存続できるみたいだぜ?
あと、敬語は要らないよ。ほら、上履き。同じ赤だろ?」
「あら、本当ね」
「で、何かご用が?」
「私も文芸部に入ろうと思っててね」
「そいつは構わないんだが……」
心配して遠野の方に目を向ける。しかしこいつはどう言う訳か、桜木の時のような拒絶反応を起こしていない。それどころか不躾に彼女をボーッと見つめていた。
「なあ遠野。大丈夫か?」
「……え? あ、ああ。僕は平気だよ」
「だそうだ。よろしく頼むよ」
「ええ、よろしく。私は一年G組の冬原智雪」
「俺は石宮誠司だ。で、こいつが」
「と、遠野譲治と申します!!!」
「ふふふ、よろしく」
「悪いんだが冬原さん。君には入部届を書いてきて貰わないといけないんだ。国語科に行ってきてくれないか?」
「ええ、入部のためなら喜んで」
そう言い残すと、彼女は足早に去って行った。
「なぁ、遠野君」
「な、何かな?」
「『名馬はその烙印で、恋する男はその眼差しでわかる』って
「それ本当?」
「さあね。トルストイの『アンナ・カレーニナ』でそんな感じのを読んだ気がする」
「……で、何が言いたいのさ」
「お前、恋に落ちたろ?」
「ほっとけ」
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