第2話 突然の事故

 緊急の招集をかけられた貴族たちでごった返している。

 王城――謁見の間では様々な憶測が飛び交い混乱の様相を呈していた。そこへ悲痛な面持ちの国王陛下が顔面蒼白で今にも倒れそうな王妃を支えながら現れると、誰もが何か恐ろしいことが起こったと理解した。


 静まり返った広間に宰相の声が低く響いた。


「視察に出られていた第一王子と第二王子が街道の落盤事故に遭い亡くなられた。特に事件性はなく事故であることが確認されている」


 宰相の告げた言葉に一同息を吞んだ。


「来週予定されている立太子の儀で、アンソニー・ブラウン公爵子息を王太子とする」


 謁見の間にざわめきが広がる。


「大陸情勢は安定しているとはいえ、少しでも弱みを見せれば付け込んでくる国が出てこないとも限らない。葬送の儀については立太子の儀の後、速やかに行うこととする。それまでは両王子の死についてはこの場より外に漏らすことを禁じる。破った者には相応の処分も辞さない」


 終始無言であった国王陛下が王妃と共に下がられると、頭を上げた貴族たちはそそくさと謁見の間を後にしていった。貴族の勢力図が一気に変わる大事件だ。これからどう立ち回るのが正解なのか腹の探り合いが始まる。そんな中ダンテス侯爵とルクレール伯爵が宰相に詰め寄った。


「私の娘はどうなるのでしょう。第一王子の婚約者として長年王太子妃になるために努力して参ったのですぞ。よもや白紙ということはございますまいな」

「私の娘とて同様でございます。第二王子との婚約が白紙になるなど納得できる筈もございません」

「ルクレール伯爵。そちらのご令嬢には気の毒だが、代わりが立てられるのは王太子だけだ。そうですよね、宰相閣下。そうなれば当然、我が侯爵家の娘が王太子となられるアンソニーの様の婚約者になるということで良いのですよね」

「結局は自分の娘のことだけか。うちの娘だって王家に嫁ぐに相応の教育を受けてきている。うちの娘がアンソニー様の婚約者でも良いではないか」

「ふん。伯爵家なんぞで家格が釣り合うものか」


 二人のやり取りに業を煮やした宰相は、鋭い視線を向けて言い放った。


「貴殿方は亡くなられたお二人に哀悼の意を表することは出来ないのですか? 婚約者だった娘を不憫に思う前に人として出来ることがあるのではないですか」


 宰相の言う事は尤もだった。ばつが悪そうに視線を外した侯爵と伯爵に宰相が言葉を続けた。


「陛下とブラウン公爵と後ほど話を致します。追ってご連絡致しますので、今日のところは……」


 頭を下げた宰相に、しぶしぶ頷いた侯爵と伯爵が謁見の間から出ていった。

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