第3話 始動の時間

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 第1王子タンザイ・ダヴィンからのお知らせ


 魔法学校Aクラス代表たるタンザイ・ダヴィンが宣言するっ!

 全てにおいて完璧なる者達が集うこの魔法学校で、貴き血も流れていない平民風情に、この学校を使わせるだなんて勿体がなさすぎる!

 そこで、我らAクラスは他の3つのクラスと合同で、平民クラスをぶっ潰すことを提案する!


 平民クラス続行には次の進級試験で、全員が以下の基準を満たすことを条件とする!


 条件1;中級魔法を4種類以上取得、発動

 条件2;学年試験、全員50位以内

 条件3;ダンジョン最下層にあるダンジョンコアを破壊する、完全なるダンジョン攻略

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「今日、黒板に貼ってありました」


 ラスカ級長が差し出した紙には、とてもふざけた内容が書かれていた。

 少なくとも、今の平民クラスの状況ではこの3つを達成するのは難しいだろう。

 なにせ、今のところ教室にいるのが、ラスカ級長だけだからね。


「あのアホ王子、ふざけたことを書きやがって」


 こんなの、ほぼほぼ無理な要求じゃねぇか。

 こっちは授業をする先生も教科書もなく、その上、教室に人が集まらないという状況なんだぞ?


「先生達に抗議することは出来ないのか?」

「言ってはみたんですが……"生徒の自主性を尊重する"と言われまして」

「完全にあっちの言いなりって事か」


 ふざけてるなぁ、まったく……。


「あ、あの……!?」

「で、級長はどうしたい?」

「そ、それは……出来る事なら、卒業したいです。折角、貴族の方に勝って入学したので」

「だよなぁ~。俺も同意見」


 まぁ、俺に見せに来るって事は、そういう事だと思ったけど。

 なにせ、退学したいのならば、俺に見せずに放っておけば、期末を過ぎれば自分含めて全員が退学処分だからね。


 話を聞くと、平民クラスで残っている連中は、級長と同じ意見。

 俺の所に来たのは最後、と言う事らしい。

 まぁ、俺の意見も、級長と同じく、卒業したい。


「いや、卒業しなければならないんだ」

「えっと、どうして、とか聞いても?」

「卒業資格がどうしても必要なんだよ。あれがないと、故郷が立ち行かないらしくてな」


 そうじゃなきゃ、わざわざこんな嫌がらせをしてくる魔法学校なんか捨てて、故郷の方に帰ってるーっつの。


 この魔法学校の卒業資格は、貴族社会では一種の持ってて当たり前のステータスらしく、あれがないと、うちの領地に色々と交易をおこなう事が出来ないらしい。

 父は持っているのだが、残念なことに俺の上の兄達は持っていないため、俺が取りに来たのである。

 将来的にはこの卒業資格を持っていることで、兄達に家から追放されずに、交易で手伝うと言うのが、田舎貴族の三男に生まれた俺の人生設計だ。


「そ、そうなんですか……」

「それに、ここで引くってのもなんだろうよ」


 ここまで、完全に平民クラスはバカにされている。


 俺は一応は貴族だが、爵位としては一番下の男爵で、それもここよりかは遥かに遠い田舎の貴族。

 貴族階級のトップに君臨する王族、その中でも第一王子からしてみれば、平民とほぼ変わらない位置なんだろう。


「(実力主義と聞いて、それなりに楽しめるかと思っていたのに。

 これじゃあ実力主義ではなく、単なる血筋優先じゃないか)」


 聞くところによると、俺以外の皆も、自分より上の相手----つまりはお貴族様を倒す実力があるにも関わらず、平民と言う事だけでこのクラスに入れられたらしい。

 実に不条理だ、意味が分からない。




「だから、俺は決めた」


 ラスカ級長の眼を見ながら、俺はグッと拳を握りしめる。


「平民クラス全員で、他のクラスをぎゃふんと言わせてやろうぜ。

 進級試験と言わず、次の試験で条件を全て達成してよ!」


 そう、平民クラスが、貴族クラスに反旗を翻す。

 これは、そういう話だ。




 そうと決まったら、まずは作戦を練らないとな。


「なぁ、ラスカ級長。今、うちのクラスには何人、残っている?」

「え? えっと……確か、私とグリンズくんを入れて、8人、ですかね」


 8人……とすれば、条件2の学年50位以内ってのは、そんなに難しくはない。


 うちのクラスは物凄い少人数クラスみたいになっているが、他の4クラスは50人規模と聞いているので、全部で208人。


「そのうちの50位だから、おおよそ3クラス分を蹴落とせば良いだけだな」

「3クラス分……って、150人以上に勝たないとっ!」

「楽勝だろう、そんなの」


 今は教科書がないが、それさえどこからか仕入れる事が出来れば、余裕だろう。

 なにせ、こんな自習だけの通っている意味すら分からない状況の中で、残り続けた連中だ。

 俺を始めとして、卒業するという意地がある。

 そういう意地がある奴ってのは、たいていめげないもんだ。


「そもそも、恵まれている貴族様ってのは、学習意欲があるヤツと、学習意欲が全くないヤツの2種類しかいないのよ」


 うちの周りの貴族が、そうだった。

 今の地位に甘んじずに頑張る貴族が少数、その他は自分が貰える取り分ばかりに気を取られたバカな奴らだった。

 パーティーで同い年のそういう連中を見ながら、こいつらがなんで俺よりも爵位が上なんだろうと、いつも考えていたさ。


「だから、大丈夫だ。級長もそう思うだろう?」

「…………」

「え、なにその顔」


 すっげー無言で、怖いんだけど。

 それってなに、8人の中で心配なのが居るって事? 学力的に?


「あー、まぁ良いや」


 俺はサッと、級長に手を差し出す。


「俺、一応は男爵子息だから貴族ではあるけれども、同じ平民クラスの仲間として。

 一緒に、卒業を目指して、頑張ろうぜ!」

「はいっ! 一緒に頑張りましょう!」


 握ることで感じる、級長の柔らかい手の感触を感じながら。

 俺はこのような理不尽への妥当と、卒業へ向けて、気持ちを熱くたぎらせるのであった。



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【Tips】級長

 そのクラスの中で一番、偉い役割の人。自分のクラスの事を気にかけつつ、他のクラスとの交渉などを行う役目を持つ

 主にクラスの中で一番、成績が良い者がこの役割を担うとされる

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