第4話 顔合わせの時間

「みんなぁ! 最後の1人、グリンズくんを連れて来たよ!」


 ラスカ級長が教室の扉を開けると共に、俺へと視線が集中する。


 興味、歓迎、好機、侮蔑。

 実に様々な、想いがこもった視線である。


「("侮蔑"は仕方ないだろうな。平民クラスとは言えど、俺、貴族だし。

 まぁ、それでも"興味"や"歓迎"があるのは嬉しい)」


 このクラスに集まっているのは、【貴族出身】か、それとも【平民出身】か、という理由だけで、平民クラスに入ることになった者達だ。

 貴族だという理由だけで、俺の事を嫌っている人間だっているだろうし。


「おおっ! 来てくれたんだな、嬉しいんだな!」

「うん! 仲間が増えてボク、嬉しいよ!」


 俺が見えた途端、駆け寄ってきた2人----この2人は、俺に対して"歓迎"の意味を込めて、視線を向けてきた2人である。


 1人は、優しそうな顔の、大柄な男。

 筋肉で服がはちきれそうになっており、魔法使いと言うよりかは、格闘家といった感じが近い男。


 もう1人は、男の制服を着た、可愛らしい女の子?

 眼鏡をかけていて、時折ズレるそれを直す様子も愛らしい。


「オデ、ゲッタと言うだよ。力仕事は任せてくれなんだよ! よろしくだよ、グリンズ」

「ボク、マオマオ! 商家出身の三男坊だから、なにか欲しいのがあったらボクに言ってね!」


 ゲッタと名乗った大男は、満面の笑みで手を伸ばし。

 マオマオと名乗った眼鏡で可愛らしい女の子……失礼、男の子は、嬉しそうに手を叩きながら。


 2人して、俺を歓迎してくれていた。


「(歓迎してくれるのは、本当に嬉しいな)」


 毒気を感じない2人の態度に、俺の顔も緩む。

 なんというか、殺気を感じさせないというか、殺気すらも浄化して正気に戻してくれるような2人だな。


「よろしく、俺はグリンズ。魔法にはちょっとばかり、精通してるからそこら辺を聞いてもらえると----」


 2人の自己紹介を真似し、自分の名前と得意なことを、親しげな口調で語る。

 "歓迎"の視線を向けた2人だけではなく、そこまでではないにしても、俺に好意的な視線を向けてきた相手に対して。



「はっ! やっぱりお貴族様は自信たっぷりですわね!」



 ---俺に"侮蔑"の視線を向ける、彼女以外に。



「初めまして、お貴族様。わたくし、マイラと申しますわ」


 所作こそ丁寧、だけれども言葉と眼からはギラギラとした敵意を持って、彼女は俺を出迎えた。

 真っ赤に燃える赤いセミロングヘアーをなびかせ、ツリ目な彼女はゆっくりとこちらに歩いてくる。


「(歩きも自然だ、音一つない)」


 無駄な音がなく、ただ動きも綺麗。

 これは相当な訓練をしていないとできない動きだ。

 それこそ、例えば----


「不躾で申し訳ないのですが、あなたには退学をしてもらえませんこと?」

「はぁ?」


 いきなりの退学勧告に対して、俺は彼女に敵意を向ける。

 "殺してやる"という殺気を、魔力に込めて放つ魔法----


 その名も、速攻で発動させた俺のオリジナル魔法【コロシテヤルー(俺命名)】だ!

 効果は、俺が指定した相手に対して、死を覚悟するほどの殺意を与える、だ!


「ウグワーッ!」


 おぉっ、凄く大きな声と一緒に、その場に座り込んじゃった。


「くっ、殺してくださるかしら!」

「いや、殺しはせんよ」

「こっ、このような生き恥をさらして、生きろと言うの!?」


 生き恥って……あー、そうだよなぁ。

 なんとか立ったみたいだけど、足がブルブルと震えてるし、何故か足元が濡れてるしなぁ~。

 女性にとっては、確かに恥ともいえるような状況かもしれない。


「(まぁ、この【コロシテヤルー】は、傷こそないだけで効果は絶大だもんなぁ)」


 魔物を生きたまま捕まえたい時とか、魔物を追い払いたい時とか。

 この魔法の使用は、かなりやってきたからなぁ。

 知らず知らずのうちに、熟練度とかが上がってて、いつもより強めになってたりしたのかもしれない。


「……すまない、大丈夫だったか?」


 俺が手を差し出すと、彼女は俺の手を払いのける。


「だっ、だれが、お貴族様の力なんか借りるものかしら!

 ここは平民クラス! お貴族様の居場所なんて、最初からないかしら!」

「ちょ、ちょっとマイラ……」


 強い口調で、俺に出て行って欲しいアピールを続けるマイラを、ラスカ級長が止めに入る。


「男爵で貴族だけど、私達と同じ平民クラスの仲間だよ? 仲良くしようよ、ね?」

「平民クラスの仲間である以前に、男爵で貴族なんです。仲良くなんて、出来ませんよ」


 あくまでも仲良くしようと言い張る、ラスカ級長。

 貴族を毛嫌いしているから無理だと言い張る、マイラ。


 2人の主張は互いに相反しており、このままだと、ずーっと平行線のままである。



「そんなに言うなら、勝負しようじゃないか」


 だからここは、当事者である俺が出張るべきだろう。


「グリンズくんっ?!」

「俺が気に食わないのなら、俺が要らないことを証明して見せろ。他ならぬ、お前の魔法で」


 俺が必要ないと言うのならば、それだけの実力があるのならば、問題はない。

 ただないのだったら、余計なことは言わずに、俺の魔法指導に従って欲しいのだ。


「勝負? あたくしと、あなたが?」

「問題ないよな? 平民とは言え、魔法学校に入学してるんだから、魔法は使えるはずだ。

 なんなら、俺は魔法1種類しか使ってはならないという、ハンデありでも構わないぞ?」

「余裕ですね……それは貴族の余裕、って奴ですか?」


 貴族の余裕? それは違う、これは単なる事実だ。


「余裕じゃない、単なる事実だ。

 それだけの力があるからこそ、俺は魔法指導という形で、この平民クラスの役に立てると言っている」

「……では、こうしましょう。その魔法での決闘で、わたくしが勝てば----この学校から退学する、と」


 おー、なんともスリルがある展開だね。


「良いよ、それで行こう」

「後悔、させてあげますわ」




 ----無理だと思うけどなぁ~。



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【Tips】オリジナル魔法

 魔法を扱う者が独自に作り上げた、その者が使うためだけの魔法

 魔法の多くは、長い時間と優秀なる学術的考察などにより、"誰でも"・"手順さえ間違えなければ"発動できるように改良されているのに対し、オリジナル魔法は手順があいまいなため、教えられても使えない場合がある

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