夢亜が推理する②

 夢亜が剣原警部に質問する。

「で、さっきの謎解きは? 路上で酔っぱらいの顔が目覚めたら殴られていたようにうっ血していたというのは?」

「おお、そうだ……三丁目の大工のGさんって知っているか」

「おかみさんが小料理屋をやっている、Gさんですか……よく、酔っぱらって道路で泥酔していますね。顔がうっ血していたのはGさんなんですか?」

「あぁ、本人は傷害事件とかにするつもりはないみたいだが……心配した、おかみさんから相談を持ちかけられてな──Gさんが、誰かに迷惑をかけたているんじゃないかと」

 レオが横から口を挟む。

「Gさんの、顔のうっ血状態ってどんなだったんですか?」

「それが不思議な状態だったんだよ……殴られたようでもなく、例えるなら【猫パンチを長い時間やられていたような】……刑事の性分で、スッキリしないんだ。どうだ、この謎を一緒に解決してくれないか……警察の役職上、傷害届けも出ていない事柄にあまり首も突っ込めないから……ポケットマネーで依頼料出すから」

 依頼料と聞いて夢亜の目付きが変わる。

「やりましょう先生、困っている人を見捨てておけません! 大宇宙の謎を解きましょう」



 夢亜たちは、Gさんのおかみさんが営んでいる、小料理屋に向かった。

 店では顔に湿布を貼ったGさんと、Gさんのおかみさんがいた。

「すみませんねぇ、うちの旦那がいつも世間様にご迷惑をお掛けして」

 割烹着姿で頭を下げているおかみさんの姿を横目で見ながら、角刈り頭のGさんは「ふんっ、しゃらくせぇ」と悪態をついた。

「かかぁも、余計なことを剣原の旦那だって忙しいだろうに……オレが別に傷害事件じゃねぇって言っているんだから、それでいいじゃねぇか『記憶にございません』」

 おかみさんが、いつもの慣れた口調でGさんに言い返す。

「なに言っているんだい、おまえさんが酔っぱらって。また人さまに迷惑かけたかも知れないから、剣原さんに相談したのに」

 剣原警部が苦笑しながら二人をなだめる。

「まぁまぁ、探偵やっている甥っ子と、その助手に来てもらったから……話しだけでもしてやってくれないか……Gさんは酔っぱらって、道で泥酔していたんだよな。その時の記憶は?」

「あるワケねぇよ、【誰かを見上げてケンカしていた】ような気もするが誰だか覚えていねぇ、朝になったら家の布団の中で寝ていた」

「なるほど、おかみさんはGさんが家に帰ってきた時の様子は覚えていますか?」

「明け方、いつものようにフラフラと帰ってきて寝具に潜り込みました」

 夢亜が剣原警部に代わって、おかみさんに質問する。

「その時、何か気づいたコトは? 些細なコトでもいいんですが」

「特に何も……あっ、そう言えば。布団に潜り込む時に『今回は引き分けだったけれど、次は負けねぇぞ』って言っていました……なんのコトか、さっぱりわかりませんけれど」

「ふむっ、そうですか」


 夢亜は小料理屋の奥にある、和室に視線が移る。

 その部屋にはプロレスのポスターや、グッズらしきモノが飾られているのが見えた。

 特に目立ったのは、燃える闘魂・アントニオ猪木のポスターやグッズだった。

 おかみさんが言った。

「いつもは襖を閉めてある部屋なんですよ、うちの旦那の趣味の部屋です」

 夢亜がGさんに訊ねる。

「プロレスお好きなんですね……特にアントニオ猪木が」

「おぅ、アントニオ猪木は世界最強の男だ、燃える闘魂だぁ」

 熱く語るGさんの目は燃えていた。


 小料理屋を出た夢亜は、剣原警部に頼んでGさんが酔っぱらって寝ていたらしい場所へと、連れてきてもらった。

「通行人の話しだと、Gさんは、この辺りに寝っ転がっていたらしい」

「そうですか……先生、Gさんと同じように道に寝てください」

「どうして、オレが……」

「いいから」

 レオが渋々、道に横たわると夢亜は。爪先でレオの脇腹を軽くツンツンした。

 少しムッとするレオ。

 夢亜が言った。

「【やっぱり、寝っ転がった人間を攻撃するのに適した方法は蹴り】ですね……いちいち、しゃがんで殴ったりはしないですね」

 レオが上体を起こして言った。

「おまえ、それを確かめるために。わざわざオレを道に寝かせたのか!」

 怒っているレオを無視した夢亜は、周辺を見回して。

 近くにあった『ボクシングジム』の看板に気づく。

 トタン屋根のその建物の中では、数名の男たちが、ボクシングの練習をしている様子が窓から見えた。

 夢亜が言った。

「あの、ボクシングジムに行ってみましょう……なんとなく少し、真相が見えてきました」

 夢亜たちは、町のボクシングジムのドアを開けた。

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