ある部族の結婚のお話

弱腰ペンギン

ある部族の結婚のお話

ある部族の結婚のお話


 修学旅行でサバンナに来たら、女性しかいない部族に連れ去られた。

 俺は今、紐で縛られ棒に括り付けられている。

「さぁ、選べ!」

 その部族は日本語を話していた。流暢だった。

「お前にはこの部族の女から一人を選ばせてやる!」

 二人しかいなかった。

 髪の長い女の子と短い子だ。

 長い方は黒髪でグラマー。申し訳程度の布がとってもセクシーです。飛び跳ねたらこぼれそうだ。

 短い子はやや筋肉質で引き締まった体。茶髪。そして出るところが出ている褐色少女だ。こちらも布が申し訳程度なので目のやり場に困る。まぁ、二人ともガン見するけど。

「どっちがいい!」

 疑問が二つある。

 なぜ日本語がペラペラなのか。そして黒髪の方はなぜ美白なのかだ。普通サバンナで部族やってたら割と黒くならないかな?

 短かい子はそれっぽい雰囲気だけど、黒髪の子はなんていうか場違い感がある。

「私か!」

 黒髪の子がズイと迫ってくる。おお、近い。大きい。

「あたしよね!」

 短い子が迫ってくる。こっちも大きいな。うん。眼福です。

 二人の鬼気迫る表情を見て、真剣なんだなとは思った。けど。

「俺、日本が良いんで……」

 サバンナでは暮らせない。

「じゃあ私、日本に行く!」

「あたしも!」

 そういわれても……こちとら修学旅行の最中でして。サバンナ土産が嫁ですって言ったら両親が卒倒するぞ。

「いや、俺、学生だし」

「私は17だ!」

「あたしは16。あと少ししたら17になるわ!」

 おお、同級生。

「「さぁ!」」

 さぁと言われても……。

「とりあえずほどいてくれないかな」

「ダメだ」

「逃げるだろう」

 そりゃな。

「逃げないよ」

「嘘だ!」

「男は、すぐに嘘をつく」

 君らが男の何を知っているんだ。そしてこの状況で何を語り始めるつもりだ。

「ポケベル、持ち歩いてねって言ったのに、部屋に忘れていく」

 昭和か。

「あれほどディスコには行かないでって言ったのに、約束を破った!」

 昭和か。

「「課金は家賃までなら大丈夫って言ったのに、嘘だった!」」

 令和か。

 もう君たちいい加減設定とかそういうのしっかりしなさいよ。

「さぁ、今、選べ!」

「そうしたら解放してやる!」

「「さぁ!」」

 俺は人生経験が豊富とはいいがたい。彼女だっていなかった。それがいきなり嫁を持つチャンスですよ。

 ってんなわけあるか!

 どっちを選んでも地獄が待ってるとしか思えない。

 選ばれなかった方はどうなるのかも伝えられてない。

 あと、君たちなんで日本語しゃべってるんだよ!

「早く選ばないと、刺す」

「切る」

 ワォ。部族ゥ。

「じゃあ、とりあえず君たちについて聞かせて欲しいすみませんもうちょっとだけ考えさせてください」

 情報を得ようとしたら槍を突き付けられた。目が本気だった。

「あ。そういえば。君たちの名前は……」

「113番」

「114番」

 なんで番号なんだ。急に不穏になったぞ。

「えーっと。黒髪の子が?」

「113番」

「短髪の子が?」

「114番」

 あー。頭いてぇ。俺は一体何の選択を迫られているんだろうか。

 これ、あれだよな。アニメとかだと選ばれなかった方が死ぬ奴とかかな。

 すげぇ嫌なんだけど。

「「さぁ、選べ!」」

 二人の女の子に迫られる。とてもうれしいことだ。不穏な空気さえなければ。

 そして縛られてなければ。

「早くしないと選択肢が増えます」

「は?」

 ガサガサと草を揺らす音がしたかと思うと。

「エントリーナンバー115番。参上!」

 髪の毛がピンク色の子が登場した。

 新しい子は色白のほうで髪の毛が短め。肩にかかるくらいって感じだ。

 だが、二人に比べると幾分幼いようで、スタイルは控えめ――

「今年で21だ!」

 おっと……。年上だ。

「何でも出来るぞ!」

 手を上下させるんじゃありません。槍がブルンブルンしてて危ないでしょうが。

「ホラ増えた」

「早く選べ」

「私も混ぜろ!」

 なんだろう、死亡フラグが立っているようにしか見えないんだけど。っていうかどれを選んでも俺、日本に帰れないじゃね?

「「「早く!」」」

 三人が迫ってくる中、再び草むらを揺らす音が。四人目が来るのか!?

「ガルルルル」

 トラが来ました。

 みんな逃げました。

 おいてかれました。

「あ、死ぬ」

 そこで気を失いました。


 それからしばらくして、救助隊が駆け付け、トラを駆逐してくれたそうだ。

「一時はどうなることかと思ったよ」

 帰りの船の中で、海を眺めながらため息をつく。一体、あれは何だったんだろう。

「お客様。危ないですよ」

「あ、ハイーー」

 振り向くと、あの黒髪の子、113番がいた。

「この船は我々が乗っ取りました」

「さぁ、選んでください」

「誰にするのだ!」

 人が増えていた。とてもたくさん、増えていた。

 後から知ったことだが、この部族は日本と交流があるんだそうだ。

 女子しか生まれない部族で、定期的に日本から男子を送り込んでいるそう。だから帰国の手段が飛行機じゃなかったのだ。

 女の子の名前は「結婚したら」つけられるそうだ。それまでは番号読みにしようと、誰かがノリで作った文化らしい。

 あの時、ここに居ちゃヤバイと海に飛び込んだ俺の直観は間違いではなかった。

 間違いだったのは海に飛び込んだことで、サメがいっぱいいた。救出されたときはうれしかったが、まぁ、もう一度さらわれることになったんだけど。

 お父さん、お母さん。息子はサバンナで近代文明に囲まれながら幸せに暮らしてます。

「「「さぁ、選べ!」」」

 って、んなわけねえだろ、日本に逃げるわ!

 俺は今日も部族からの逃走を試みるのだった。

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