正懝の味騙 セイギノミカタ

ぱんだぱん

第1話

俺の名前は山田誠。ごくごく普通でありたい高校生だ。なぜ普通で“ありたい”なのか。それは俺には秘密にしている特殊能力を持っているからだ。


それは少しだけ先の未来が分かってしまう、未来予知だ。突然意識が遠のいて夢を見ているように少し後の未来がみえる。


最近はそれが何故か頻繁に起きるようになってきた。そのせいで授業も真面目にきいていられないし、なにより脳が疲れてくる…。


「誠。なぁ、誠!聞いてんのか??」


「ん?あぁ、ごめん。何の話だっけ?」


「はぁ、お前最近ぼーっとしすぎだぞ?寝不足か?まぁいいや。ネットニュースの話。東京都の一区でかかるとやべぇウイルスが発生したらしいぞ。」


「何それ?デマじゃねーの?」


「いやいや、これはデマじゃねぇよ。多分。人が倒れていく動画もあんだぜ?」


と言って撮っている人の前で次々と人が苦しそうに倒れていく動画を俺に見せてくる。

確かに本当っぽく出来てるけど…


「どーせCGなんだろ?何かのドッキリ映像とか…。」


「は〜…つまんねぇの。現実見すぎんなよな。こんぐらいの事件でもないと人生ワクワクしねぇだろ??」


大半の人間はこうしてドキドキする事や、びっくりする事件を今か今かと待ちわびている。

でも俺は正直、ドキドキよりも安定の方がいい。その方が安心できる。なにより何も無く普通、という事は安全という事なんだから。


そんな事を考えていると突然、クラス中が白い顔をしながらザワザワと騒ぎ始めた。

それに便乗するように俺の友達も焦りながら話し始めた。


「なぁ…!誠…!」


「はぁ、今度はどうしたんだ?」


「お、おぃ。やべぇよ。この動画って隣の町だよな……。」


そう言ってまた同じように動画を見せる。

そこに映っていたのは確かに隣町。そして同時に、変な大きなツギハギだらけの生き物が1匹、街の中を突き進んでいる。


「なんだこれ。さすがに冗談きついわ。CGも雑コラ過ぎ。」


「お、おぃ…。ちょっと待ってくれよ…。」


「なんだよ。もうそんな脅しも効かねぇぞ。」


「い、いや…窓の外………見てみろよ……。」


ゆっくりと窓の外を見ると俺が楽しんでいた普通の日常が崩れていく…そんな光景が広がっていた。


目に入って来たのは動画で見たのと全く同じ、変な生き物がこちらへ向かって建物を全て壊しながら突き進んでいる光景だった。


そして、現実逃避もさせないとばかりにすぐに警告の放送が流れた。


《生徒の皆さん。落ち着いてください。学校の外には出ないようにしてください。》


先生の言葉には従わず俺の友達は突き進んでベランダ側の窓を思い切り開け放ち外へ出ていった。


その瞬間、元気よくベランダに出たはずの友達の様子がみるみる変わっていった。肌が爛れだんだん呼吸が荒くなっていく。


「いでぇぇえええっ…!だずけで……!!」


友達の叫びが教室に響いた後、一気に悲鳴と叫びが教室内を包み込んだ。


同じように倒れていくクラスメイト。それを見て名前を泣き叫びながら肌が爛れる奴。その光景はさっき見せられた動画とも全く同じで…地獄に落とされたのでは無いかと思う程、悲惨で信じられなくて…なにより恐怖を感じた。


それと同時に俺はある事に気づいた。

なんと、俺は…俺だけはなんの症状も出ていなかった。みんなが倒れていく中、1人だけ無傷で立っている。


俺は咄嗟に窓を閉め、助けを求めるために廊下へ飛び出した。すると、他の教室でも同じ事が起こっているらしく、どこに走っても爛れる生徒の叫び声が聞こえる。


職員室に着いたとしても希望なんて無かった。

すでに中は赤く爛れた先生たちが1人残らず倒れていた。

俺は自分の何も出来ない状況に混乱と焦りを覚えて、咄嗟に叫んだ。


「誰か…っ…!誰か助けてくれよ!!!!!」


影ひとつ動かない学校にその叫びが響き渡る。

誰も助けに来ないのなんて分かっていた。なぜ、死ぬならば俺だけみんなと一緒に死ぬ事が出来ないんだ。俺一人だけ生きても…なにも…。


「!!やっと見つけた!」


突然後ろから聞こえてきた声に俺はびっくりして振り返った。すると、後ろで茶髪の女が目を輝かせながらこちらを見ていた。


「あ、あなたは…?」


「今は話してる場合じゃない。手遅れになる前にみんなを助けるよ!」


「助けるって、どうやって…。」


そう聞いている間にその女は俺の手を掴んで上へ上へと階段を登り始めた。

そして、屋上のドアを勢い良く開けると1人の背の高い、正直イケメンな男が振り返って話し始めた。


「あら、お目当ての子見つかったのね!」


「うん!正真正銘、この子がヤマトだよ!」


……は?完全に人違いをされている。俺はヤマトじゃなくてまことだ。

しかもこんな状況で人探しとか、色々大丈夫か?


「あ、あの…?人違いだと思います…。」


「最初はそう思うわよね。でもアタシもあなただと思うわ!知らないけど!」


「…!来るよ!トイチ!ヤマト!」


その一言ですぐに空気が変わったのが俺でも分かった。


周りを見渡すと、爛れた高校の生徒達と校庭にいるバカデカいぬいぐるみとはまた違う、人間より一回り大きいツギハギのぬいぐるみ達に囲まれていた。

なんなんだ、この状況は…。


「あらあら、今日も大量ね。」


「探すのに時間かかっちゃったからね~。この学校広すぎ!」


「あ、あの??」


「あーっ…ごめんごめん。ぬいぐるみは倒して、生徒達は気絶させて!後で治すから!」


「あ、違っ、そうじゃなくt……」


と聞き返す間もなくぬいぐるみと生徒が襲ってくる。

ごく普通の一般人が戦える訳ないでしょ!!


オ"ァ"ァ"ーッ


おぞましい叫び声をあげながら近づいてくるぬいぐるみに為す術なく、俺は思い切り目をつぶった。


多分これは……。これはきっと夢なんだ。

予知夢を見すぎて疲れてしまった故に起こした夢。起きればまた普通の日常が戻ってくる。





…………そう、思ってたのに。



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