第4話《美味しいご飯》
この話には残酷な表現が含まれます。ご注意下さい。
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俺、何してたんだっけ…
どこだろう、ココ…
辺りには何も無い。
広がるのは干からびた大地と照りつける太陽。
俺の手足は痩せこけていて気持ちが悪い。
「あぁ……う……あ…」
喉はカラカラで上手く言葉を出すことも出来ない。
なんで俺はこんな所にいるんだろう。
母はどこに行ったのだろう。
こんな所に一人ぼっちなんて初めての経験だ。
喉が乾いたな…
水が欲しい…
お腹がすいた…
何か食料を見つけないと…
探さなきゃ…
どれくらい歩いただろう…
このままでは餓えて死んでしまう…
こんな死に方は嫌だ…
ハラガ減ッタナ
先の方に何かが見える。
その瞬間、景色が変わった。
体力の限界で幻覚でも観ているのだろうか。
でも、この景色は見覚えがある。
思い出した。6歳の時、母と来た場所だ。
あの時俺は初めて死を覚悟したんだ。
2週間、アメリカ大陸を歩いたが、何も無くてお腹が減ってもうダメだって思った時だ。
今の俺にそっくりだな。
あの時もこんな感じにやつれていたっけな。
でも、助かった。
これは酷い思い出なんかじゃない。
とても嬉しかった。楽しかった記憶だ。
俺がもうダメだって諦めた時。
星の綺麗な夜だった。
「星夜、ご飯、見つかったよ!!」
ほんとうにギリギリだった。
母も何も食べてなかったのに、一生懸命探し回ってご飯を見つけてくれたんだ。
あの時、母が持ってきたのはビーフシチューの缶だった。
「星夜は食べたこと無かったろ!お肉だよ!動物のお肉だ!!はは、だからほら、口を開けろ!これを食べて元気を出すんだ!」
俺を起こしてスプーンで口に運んでくれたビーフシチューの味は、今まで食べたことの無いようなとても美味しいモノだった。
お肉の塊がホロホロと口の中で溶けて、トロトロとしたシチューが俺の乾きを潤していく。そして次は、ちょっぴりしょっぱい涙の味がした。
母が泣いていたのだ。
「良かった…間に合った…良かった…良かった…」
いつもはあんなにかっこいい母が、俺のためにこんなにも顔をクシャクシャにして泣いてくれている。
あぁ、ほんとうに幸せだった。
初めて食べたお肉のおかげなんかじゃない。
母の愛が俺を空腹から救ってくれたのだ。
そう、これは幸せな記憶。
とても満たされていて、人生で1番美味しかったご飯の味だ。
ありがとう。母さん。
死ぬ前にまた会いたいよ、1人は寂しいよ。
「か…ぁさ…ん…」
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意識が段々と覚醒をしていく。
あぁ、夢を見ていたのだろうか。
なぜだろう。いつの間にか腹は満たされていて、幸せだ。
さっきまで餓えていたはずなのに。
口から何かが垂れる。
ぼやけた視界の焦点が合っていく。
ーーーー零れた雫は紅かった。
「よ…うやく、起きたのかい。星夜…
あぁ………よかった…よかった…よか…った。」
あの時と同じだ。カッコ良くて綺麗な母が、顔をクシャクシャにして泣いている。
だが、零れ落ちた雫は母の頬を紅く染めている。
ーーーーーーーー何かがおかしい。
嫌な予感が全身を支配する。
見たくない。
見たくない。
恐る恐る目線を移した母の身体には大きな穴が空いていた。
今更確認した両腕は真っ赤に染まり、口の中には酷く嫌な鉄の味が広がっている。
その時俺はようやく理解した。
俺が母を喰ったのだと。
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