第3話《始まりの日・下》
【西暦2195年旧ロシア】
「
奴らの相手をしながら俺に指示を飛ばす母。
黒髪のポニーテールに、服装は黒のスーツ。首にはドックタグをつけている。
身長は俺より少し低い170無いくらいで、両足の太ももにナイフを刺し、手には刀と言う長身の武器を構えている。
「了解、援護なんて必要無いだろうけどなっっ!」
俺は、後ろから飛び込んできた餓鬼の頭に穴を開けてやりながら母の方へ目を向ける。
正面、そして左から迫る相手に、なんの危なげも無さそうに片手で処理を終わらせる。
餓鬼の頭をまるで作業のように淡々と切り飛ばす姿を見て、どこに援護が必要あるのかと、いつも疑問を持たざるを得ない。
「何を言う、私だって人間だ、間違えることもある、そんな時星夜の助けが無かったら私も死ぬ時は死ぬ。」
「一緒に旅をしてきて1度もそんなことがなかった人に言われても、説得力が無いぞまったく。襲ってる立場が逆に見えるとか化け物かよ…」
そんなやり取りをしながらも、実はもう既に5体の餓鬼を切り捨てた母にジト目を送りながら、後ろから来た掴み攻撃をしゃがんで回避し、そのまま立ちながら顎から脳にかけてナイフで貫く。
「星夜のその五感の良さは私には無いし、今のを真似しろと言われても私にはできる気がしない。十分星夜も化け物だよ。」
そんなことを言うが、普通にこなす母を簡単に想像出来てしまうのだから、つくづく敵わないな。と思いつつも、「ありがとう」と少し照れくさく短く返す。
「よし、これでおわりだな。星夜、こいつらを纏めて置いてくれ、私は2度寝する。」
「えー、また俺かよ。次は母さんだって言ってたじゃんか。」
俺達は世界を旅しながら、食料と生存者を見つけることを目標に生活している。そして今は、夜営の途中に餓鬼に襲われた。という訳である。
「レディにむかって化け物と言ったことを忘れたわけじゃ無いだろう?」
そう言いながら物凄い殺気を送ってくるので、本能的に脊髄反射で「俺がやります!やりたいです!」と言ってしまったのは仕方ないと思うんだ。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪
今は、死体の処理も終わり、母との見張りの交代まで夜営地から数メートル離れたところで戦闘シュミレーションをかねたトレーニングをしている。
逆手に持った愛用のサバイバルナイフを仮想敵の頭に突き立てる。
『ーーーーーーーーーーーーッッ』
「ん?……」
僅かに何かの音が聴こえた気がした。母曰く、俺の五感は普通よりもとても強いらしく、耳もとてもいい。30m離れた位置の声も鮮明に聴こえる位だ。
普段から何もかも聞こえている訳ではなく、聴こうと思えば聴く力があるだけで、日常は母と変わらない。
「気のせいか?……」
何かが聴こえた気がして動きを止め、俺の五感をフルに使って辺りの警戒をしてみるが、何も聞こえないし感じない。
緊張の糸を解すように、深く息を吐く。集中力も切れてしまったし、トレーニングはここで終わりにしようと、持っていたナイフを腰のベルトに刺した。
『ピタッ…。』
今度はハッキリと聴こえた。
嫌な予感に心臓を掴まれ、音の聞こえた背後に振り返る。
するとそこには“奴”がいた。
数歩離れた位置からこちらを見る餓鬼。
奴は驚愕に染まる俺の顔を確認すると、してやった。と言わんばかりに気味の悪い笑みを浮かべた。
そう、奴は笑ったのだ。
「なっ…でッッ!!」
突如現れた餓鬼に怯み、思わず1歩後退りをした瞬間、それは起こった。
奴は胸を大きく逸らすと、口を大きく開けたのだ。
そして。ーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー吼えた。
奴の咆哮は俺の耳を貫き、目の前が一瞬真っ白に染まった。あまりの音の大きさに、鼓膜は破れ、脳が一瞬麻痺したのだ。
そんな俺の隙を逃さず、いつの間にか僅か数センチほどの距離まで詰められていた。
『グガァァァァァ』
再び奴は悪い笑みを浮かべると、隙だらけの俺の肩に噛み付いた。
鋭い痛みが全身に走る。
奴の思惑にハマった事への怒りがふつふつと湧いてくる。「巫山戯るなァァ!!!」と声を張り上げ、反撃のために腰のナイフを抜いた。そして、肩を食いちぎろうとする奴の首に怒りに任せ、全力で突き刺した。そして、仰け反りガラ空きになった腹を全力で蹴り、吹き飛ばした。
心に僅かに余裕ができ、現状の理解が追いついてくる。そう、奴は吼えた。つまり、ここには大量の餓鬼が集まってくるということ。そして、もう既にドドドドドッと、奴らの足音が迫って来ることが足裏から伝わってきている。
不幸にも、俺が突き飛ばしたアイツは、脊髄の充分な損傷を与えられなかったらしく、よろりと立ち上がると、こちらを一瞥し身を深く屈めた。
すると、『ドンッッ』という衝撃と共に普通の餓鬼では有り得ないほどの跳躍をみせ、逃走を許してしまった。
「ちっ…く、、しょうが…!!!!」
奴と交代するように大量の餓鬼達が集まり、完全に囲まれる形になってしまった。
俺は痛みと怒りに我を忘れ、ナイフを持つ手に力が入る。そしてその怒りをぶつけるように、周りの餓鬼を屠っていった。
無我夢中で奴らを薙ぎ倒す中、頭に過ぎるのは母の安否。餓鬼に囲まれ、姿を確認出来ていない母への心配だった。だが、無情にも俺の視界は段々と赤く染まり、血はマグマのように沸騰し、自我がそこで崩壊した。
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