第2話《始まりの日・上》

【西暦2065年】


「本日、人類天使化計画による、超大型スペースシャトル『ノアの方舟はこぶね』が地球に帰還しました!」


2061年、医療機関の急激な成長と共に世界は人口爆発を起こし、総数約130億人を突破。新たな資源を求め宇宙への進出を余儀なくされた。


世界のあらゆる機関が連携し、計画されたのが


《人類天使化計画》


資源の枯渇した地球から、人類は逃走するのではなく、惑星依存という思想を取り払い、次の段階へと進化し、宇宙へ羽ばたく。ということをコンセプトに成り立った計画だった。


ノアの方舟の乗組員全120人らは、宇宙空間での自給自足をし、見事5年間の全員生存を達成し、身体検査を兼ね地球に帰還したのだ。


人類にとってそれは喜ばしく、人類史における大きな前進であるはずだった。


肝心である『何か』の部分は歴史の闇に葬られ忘れ去られてしまったが、『何か』を求め争い、

ノアの方舟の帰還後、1年も経たずに

《第三次世界大戦》が勃発した。


この戦争は熾烈を極めた。


核の炎が世界を飲み込み、ただでさえ枯渇していた物資は底を尽き、人類は飢餓の苦しみに襲われたという。


』そこまでさせたのか。

はたまた『』求めていたのか。


僅かに残った食料を世界の上流階級の人間が独占、押収したせいで一般市人は飢餓に襲われ、大量の餓死者を出した。


そして起こった市民の考えは………



《人を食えば飢えは凌げる。》



と、いうものであった。


そこからは世界はまさに地獄と化した。


共喰いを始めた人間は、

ある日は老人を喰い、またある日は友人を喰い、

そしてある日は家族を喰った。


やがて人々は廃人と化し、考えるという事を辞めていった。


飢えを凌ぐためだけに生きる化け物になったのだ。


そう、そして彼らは生物として進化した。


また、同時に人種ヒトしゅとして死んだのだ。



後にその生物を我ら人類は『餓鬼』と呼んだ。





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【西暦2200年日本・旧茨城】


今にも崩れそうな看板が先に続く道の行先を教えてくれる。


「東京?」


俺は途方もない旅をしている。

目的は奴らを駆逐し、食料を探す旅。


俺の生きる理由は奴らを滅ぼす事。それだけだ。


それ以上でもそれ以下でも無い。


俺は15歳の頃母を亡くした。母の名前は齋藤優花さいとうゆうか


母は優しく、いつもニコニコとしていた。こんなにも壊れてしまった世界で、唯一頼れる心の拠り所であったのだ。


物心着く前から俺は母と2人で旅をして生きてきた。


父は俺が産まれる前に亡くなったらしい。

それ以上のことは母は教えてくれなかった。


でも、俺はそれ以外の全部を教えてもらった。


世界のことや、一般常識にテーブルマナー。


母と俺しか居ないのにマナーなんて何に使うのかと反発したこともあったが、

「人として大切なことなのよ」というのは母の口癖だった。


そして、この世界で最も大切な事。

人を喰らう化け物、餓鬼と戦う術を教わった。


奴らの特性や倒し方も母はなんでも知っていた。


優しくて強くてかっこいいそんな母が俺は大好きだったんだ。


生活は苦しいし、危険が常に付きまとう、だけど、母と2人で居られればどんな困難も乗り越えられると信じていた。






俺が母を殺した、あの日までは。

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