きっかけ-2
(あ~・・・・かったりぃ。)
服屋のバイトを始めて2日目。
早くも俺は辞めたい衝動に駆られとった。
ほんまなら、今頃あいつらと起業して一緒に仕事しとるはずやったのに。
いや、そない思てたんは、俺だけやったみたいやけど。
よう考えたらわかるはずやんな。起業なんて、そない甘いもんやない。
金だけ出したらええなんて、そない甘い話を信じとった俺もアホやったけど。
親も起業して自営やし、なんや感覚マヒしてもうてたんかな。
(どんだけかかるやろな・・・・全額返金まで。)
借りた相手が親やからまだええもんの、このままバイトで返すんは、まぁ無理な話や。
けど、今はまだ正直、就職活動する気ぃなんて全然無い。
心のダメージがデカ過ぎる。
もう誰も、信用できひん。
あいつらのこと、仲間や思てたのに。
親友や、思てたのに。
俺だけ置いてけぼりにして、自分らはちゃっかり就活しとったなんて。
俺の事、単なる金づる扱いしてたやなんて!
こないな状態で、就職活動なんて、できる訳ないやん。
周りがみんな、敵だらけに思えるわ。
うまいこと就職できたとしても、きっと誰のことも信用なんてできひん。そんなんで、ちゃんとした仕事なんて、できる訳ないやん。
特に興味があった、ちゅう訳やないけど、たまたま見つけたバイトの募集に応募して、たまたま採用されて。
こんなんで、ええ訳ないのは、分かってんねんけど。
「はぁ・・・・」
店先で盛大な溜息を吐いた俺の横を、人影が通り過ぎて店の中へと入っていた。
「すんません!まだ店開けてないんです・・・・」
お客さんかと思て呼び止めたもんの、振り返ったその人の顔に、言葉が喉の奥へ吸い込まれた。
今まで見た事ないくらいの、べっぴんさんやった。
なんやろ、この人。ほんまに人間やろか。
そない思うくらい、めちゃくちゃ綺麗な人やった。
まだ開店まで時間もあるし。
どうせバイトやし。
今を逃したら、こないなべっぴんさんに近づく機会なんて、二度と無いかもわからんし。
そないな事が一瞬で頭をめぐり、思わず俺はこう口にしとった。
「なぁ、ちょっとお茶でもせぇへん?」
俺の誘いに、その人は綺麗な形の眉を器用に片方だけ吊り上げて、言った。
「君、新しいバイト?」
(えっ?!うそやろっ、男やったんっ?!)
口紅でもつけとるんやないかと思うような、可愛らしいピンク色の口から出た声は、明らかに男の声。
「どうせバイトや思てサボるような奴、この店には必要無い。店長には僕から言うておくから、君はもう帰ってええよ。」
そう冷たく言い放って、べっぴんさんは店の奥へと入って行った。
必要無い。
この言葉が、メチャクチャ刺さった。
今の俺には、酷な言葉やった。
そや。
俺は、誰からも必要とされて無い人間なんや。
あいつらからも。
・・・・バイトでさえも。
「なんや、まだおったん?」
店の奥から出てきたべっぴんさんが、店先でしゃがんでいた俺に驚いた様に目を丸くする。
(気力が無うなって、立ち上がれんかっただけや。)
言い返す気力すら無く黙っとった俺に、べっぴんさんは言った。
「居るなら、仕事してくれへん?今日、もう一人のバイトが急病で休みになってん。僕だけでも問題無いけど、時給貰ろてんやったら、その分働いてもらわんと。」
「え・・・・?」
「ボサッとしてんと、これ、あっこに運んどいて。終わったら次あるから、声かけてな。」
言うだけ言うと、べっぴんさんはまた店内へと戻っていく。
(俺、ここにおっても、ええんかいな?)
なんや、少しだけ嬉しぃなって。
俺はいそいそと、言われた荷物を奥へと運び始めた。
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