二話目。記憶の底にて

 初めに出てきた登場人物は、自分と、年が近そうな男性一人との二人。


その人は男性にしては長めの茶色寄りの黒髪。

私が顎にギリギリ届かないぐらいの髪の長さだが、その人は私よりも少し長いぐらいかな。

光の角度によっては黒色にも青色にも見える目、どちらかというと華奢な体。

ゴツいパーカーから覗くベストとワイシャツ。

そもそも見たことすらもない人物だ。


「宮凪 裕」


知らないはずの、でもどこか懐かしい声で呼ばれたのは、私の名前。


でも登場人物の男性、そして私には発声した形跡が無い。


辺りを見回そうとしたが体はびくともしない。自分は何かの縁に座っているようだった。

そしてそのまま登場人物は増えることはなく、淡々と場面は進行した。


ある時は刺された。首を絞められた。毒を飲まされた。プールに突き落とされた。


 それは、私が何度も何度も繰り返し殺される記憶。私を殺したのは、もう一人の登場人物の男性。


最初こそ私が殺されるまで行かないものも含まれていたが、段々それも少なくなっていって。

 

そして、この記憶の持ち主は、少し離れたところから私が殺されているのを冷静に観察していた。私に気分を悪くさせることも吐き気を催させるのも許さずに、一切の感情のゆらぎも主観も考えも無く。


言うならば淡々と撮影し続けるだけのカメラ。

一切心情を感じ取ることが出来ないのは記憶としては非常に異例、むしろありえないこと。


そしてこれも極めて不可解なことに、記憶の映像には、最初に私が名前を呼ばれたこと以外音がついていなかった。

まるで無声映画をロボットの前で延々と流し続けるよう。それぐらいの徹底した無関心。一応人が目の前で人が死んでいるのだが。


 一体、自分を繰り返し殺しているのは誰なのか。そして記憶の持ち主は誰なのか。


私はこうして殺されたはずなのに生きている。どうやって私を繰り返し殺したのか。


何故私をを繰り返し殺したのか。何故自分はこの記憶を手放したのか。


分からないことだらけで、考えて、考えて。そしてとりあえず私を殺したのが誰なのかを知りたい。探そう、と心に決めて。

そこまで考えた後、沼に引きずり込まれるように意識がブラックアウトした。


 意識が消える直前、流れ込んできたものは、懐かしい、安心する、そして、かすかに痛いような。

これは今まで感じて居なかった観客の感情?違う。今、目の前は真っ暗。あの記憶を思い返していないのだから。

では、誰のものなのか。でも結局役者も観客も引き上げた以上、そもそも感情なんてものがあると分かるのは、自分だけなのだ。


でも何故私はこんな感情を持った‥‥?


考えても考えても疑問しか出てこないことに既に諦念を抱きながら‥そしてそのまま眠ってしまったらしい。


そのまま、翌日の朝を迎えた。

 

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