第8話醜態

翌日を迎え、登校し、昇降口の下駄箱の前でスリッパに履き替えていると背後から挨拶が聞こえた。

「おはようございます。お話ししたいことがありまして......」

「おはよう......沙穂ちゃん。もしかしなくても、昨日のことについて......だよね?」

白音さんに挨拶を返し、訊ねた。胸が今にも張り裂けそうで悲痛に顔が歪んでしまいそうだ。

昨日は拒絶したような反応はされなかったが、怖い。

とても、ものすごく、怖いという感覚が再び私の身体中を支配──侵食していく。


彼女が静かにコクッと首肯し、歩きだした。

彼女の隣を歩きたいが、とてもじゃないが隣を歩けるような能天気さは持ち合わせておらず、彼女の後ろを歩く。

「先輩と居れる今が幸せです......先輩が声を掛けてくれた日からに映る景色が華やいで見え始めました。これまで瞳に映っていたのは何だったんだろうってほどに色付きました」

「う、うん......」

「先輩と出逢えたから、この瞬間ときを生き続けられて幸せだって感じられるんです。幸せだと気付かせてくれた先輩には感謝してもしきれないんですっ!私に存在証明いきるあかしを与えてくれた先輩はかけがえない存在ひとですっ!先輩のことが大好きです......だから、心配しないでください。先輩が私なんて嫌いだ大嫌いだ、顔も見たくない、どっかに消えてしまえって吐き捨てられても隣に居たいって思うほどに好きなんです。先輩のことが好きになっちゃったんです。こんなに言ったのに信じられませんか、先輩?」

足を止め、振り返る彼女が真夏の陽射しに照り付けられながらも懸命に咲き誇る向日葵のような笑顔を浮かべていた。

私は堪えていた涙がブワァーっと溢れだし、彼女を抱き締めて泣きじゃくった

「ううぅぅ......ぐすっうぅぅん......ありっいぃぃ、がぁぁぁああぁぁああどおぉぉぅっ!ざあぁぁあああぁぁぁふぉぢぃぃやぁぁぁあああんっっ!」


私は、一年のフロアで後輩に抱き付き泣きじゃくる醜態を廊下で晒していた。


正気を取り戻した途端に、死にたくなる程の恥ずかしさが溢れだし、悶えずにはいられなかった。

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