第16話 葉桜と未来とプロポーズ
浮気許すまじ。
さあ、
生徒会室を出たわたしは、逸る心を抑えて廊下を進む。
真広の一番はいつだってこのわたし、
なのに
訴訟やむなし。
判決はギルティ。
今から刑を執行します。
「ぜーったい泣かす!」
気合いを入れて昇降口を飛び出した。
真広の泣き顔を想像すると、ワクワクが抑えられない。
「見てなさいよ、真広っ。メッソメソに泣かして、『ごめん、優愛! すごい、優愛! やっぱり俺の女神は優愛だけなんだーっ!』って気づかせてあげるんだからーっ!」
真広はもうこっちに着くらしいから、会敵したら即迎撃。
そのつもりで正門を目指す。
わたしの決意に慄くように、校庭の木立ちが揺れる。
ローファーの足音高く、煉瓦調の舗装路を駆け抜けた。
時刻は放課後。
夕焼けが辺りを照らし始めている。
そして正門に差し掛かった、その瞬間だった。
わたしは思わず声を上げた。
「あ……っ」
真広だ。
ちょうどあっちも着いたらしく、正門で鉢合わせになった。
わたしの声で真広も気づいた。
息切れしながら伏せていた顔をハッと上げて、
「優愛っ!」
いきなり手を握られた。
「へっ!?」
なんか……力強い。
見れば、真広はなぜか泥だらけだった。
息も上がっていて、今にも倒れそうな様子。
なのに手を握る力はすごく強くて、瞳は真っ直ぐにわたしを見つめてくる。
なんか雰囲気が違った。
え、なにこれ?
なにこれ、なにこれ?
なんか真広……
「やっと会えた……っ。この10日間、ずっと優愛と話したかったんだ」
「えっ、いやそれは……わた、わたしもだけどっ。え、あれ? み、三上会長は?」
「会長は子猫を助けてる。最初は二人で泥だらけになって木に登ってたんだけど、『ここは俺に任せて先にいけ!』って言ってくれて。でも三上会長のことはどうでもいいんだ」
「どうでもいいの!?」
あれっ、心の浮気は!?
「あの人はこういう時、『俺のことなんて気にするな』って言う人だ。だから会長のことはどうでもいい。いま大事なのは俺たちのことだ」
……なんてことだろう。
よく分からないけど、会長のことはどうでもいいらしい。
「あ、あれ? じゃあ、わたしのメソメソ作戦は……?」
どうしよう。
なんか事態が予想外の方向に進んでいる。
わたしは今も真広に手を握られている。
手のひらが熱い。
すごく……熱い。
「俺が今日時間を作ってって頼んだのに、遅くなってごめん。それにこの10日間、淋しい思いをさせたことも……ごめんね」
「は、はあ!? なんですって!?」
これには目を剥いた。
「このわたしが淋しい!? 何言ってんの、そんなわけないでしょう!? むしろ真広が淋しい思いをしてるだろうなって余裕で心配してあげてたくらいよ!」
猛然と言い放つ。
いつもの真広なら動揺したり、ツッコミを入れたりしてくるところだ。
でもそうはならなかった。
なんか全部受け止めるみたいな顔で微笑んできた。
「もちろん俺は淋しかったよ。だって優愛と話せなかったから」
「えっ。あ……そ、そう?」
「だから分かるんだ。優愛も淋しかったんだってことが」
「なっ!? 違うって言ってるで――あっ」
きゅっと手に力を込められた。
それだけで心臓が跳ね上がった。
「分かるよ。世界で一番大切な人のこと、分からないはずがないもの」
「なっ、なっ、な……っ」
顔が熱くなってきてしまう。
なにこれ!?
なにこのイケメンみたいなムーヴ!?
やっぱり逞しくなってる。
なんなの?
この短期間で真広に何があったって言うの……っ。
「10日前、大切な話があるって言ったの、覚えてる?」
「お、覚えてるわよっ。覚えてるけども……っ」
正直、真広に動揺してしまって頭が上手く働かない。
えっと、あれは……わたしが留学をやめた理由を話した時のこと。
真広は突然、表情を引き締めて、10日後に時間を作ってほしいと言ったのだ。
ああ、そうか。
思えば……あの時から真広は変わり始めてたのかもしれない。
今日はわたしの誕生日。
きっと何かサプライズを用意してくれているのだろう。
そのために三上会長に協力してもらっていたんだってことも理解はできる。
会長と10日間を過ごすうちに心酔しちゃってるんじゃないかと危惧もしたけど、どうやらそういうこともないみたいだし……。
よ、よーし、ここは力いっぱいサプライズに驚いてあげちゃおうかしら。
実際、優秀なわたしにはだいたいどんなものが来るかは予想がついちゃってるけど、大げさにびっくりしてあげるのも女子力ってものよね。
うんうん、と頷いて心の準備を完了し、わたしは優しさいっぱいに水を向ける。
「なあに? 話があるなら言ってみなさい。聞いてあげるから」
腰に手を当てて真広を見据え、準備万端。
さあ、来なさい。
あなたが舞い上がっちゃうくらい、驚いてあげるわよ。
すると真広はそっとわたしの手を離し、自分のポケットに手を入れた。
「ありがとう。実は――これを渡したかったんだ」
取り出されたのは、きれいな四角い小箱。
やっぱりね!
見事に予想通り。
朝起こしにいってあげたり、お弁当作ってあげたり、このわたしがあんなに分かりやすくアプローチしてあげたんだから、当然よ。むしろ遅すぎるぐらいだわ。
でもまあ、真広はこれを用意するためにすっごく頑張ってくれたんでしょうし、ここは全力で驚いてあげましょう。
全力で、そう……ぜ、全力で……っ。
やばい、肩がぷるぷるしてきた。
なんか心臓が暴走機関車みたいにドキドキしてる。
落ち着きなさい、藤崎優愛。
これは想定してたことでしょう?
いくら真広が男の子の本気を見せてくれたからって、ここでわたしが感動でメッソメソになっちゃうとか格好悪いから絶対ダメ。
主導権はいつだってわたしにあるべきなの。
驚いてはあげるし、素直に感動も伝えてあげるけど、メッソメソになるのだけは……っ。
そうやって心のなかで戦っていた、その時。
ふいにわたしは気づいた。
「――え?」
目に留まったのは、小箱の片隅。
そこに書かれているものを見て、目を疑った。
あれは……え、嘘でしょ?
頭が真っ白になった。
完全に予想を越えた、人生最大の驚きがわたしを襲う。
「なんで、このサインが……!?」
真広が差し出した小箱には藤崎グループ・ジュエリー部門のロゴが印字されていた。
でもそれだけじゃない。
ロゴの隣にはグループの社長であるパパのサインが印字されていた。
社長のサインが入った商品。
これは藤崎グループにおいて市場には決して流通しない、特別製である証拠。
パパには政財界を中心として特別懇意にしているお客さんたちがいる。
このサインはパパが彼らのために用意したエクストラ・ブランドの商品であることを示している。
値段ではなく、相手との信頼で取引するブランドだ。
このサインが入っているものを持っているということは、藤崎グループ社長に認められ、対等に取引したことを意味している。
尋常なことじゃない。
なにせ娘のわたしだって、エクストラ・ブランドは与えられてない。
わたしがサイン入りの商品を手にできるのは、どんなに早くても社会に出てから十年以上先になるはずだ。
それだけとんでもないものを真広が今、持っている。
なんで!?
どうして⁉
どうやって!?
混乱が怒涛の勢いで押し寄せてきた。
唖然としているわたしへ、真広が口を開く。
「や、さすがに苦労したよ。あの藤崎グループの社長だもん。一筋縄じゃ捕まらなくてさ」
「あ、当たり前でしょ!? そこらの議員レベルでもおいそれとは会えないのよ!?」
「うん、だから大物政治家のコネを使わせてもらった」
「は?」
「あと本場の銃器のプレッシャーってすごいね。SPを足止めするには十分だったよ」
「はい!?」
「それで会うことは会えたんだけど、なんか『娘を奪いにきた男』認定されちゃって、話を聞いてもらえなかったから最後は高級外車VS大型バイクのカーチェイスになったよ」
「なにしてるのーっ!?」
どういうこと!?
ウチのパパ相手に色々なにしてくれてるの!?
そもそもどういう世界の話!?
っていうか、パパと真広が真っ向勝負してるじゃない!
わたしの知らないところでなにが起きてるのよーっ!?
こっちはもう大混乱。
でも真広はどこ吹く風という顔。
「他にも裏から表から色々工作してたから、追いついてからはどうにか話を聞いてもらえたよ」
「い、色々工作って……いやなんなのそれ!? 一般家庭の真広にそんな力ないでしょ!?」
「あるよ」
ふわりと笑った。
「
見違えるように強く、そしてどこか誇らしさを滲ませた笑みだった。
「多少無茶したおかげかな。最終的にはお義父さんも『君は面白い男だね』って言ってくれたよ」
「確かにパパはそういうこと言いそうだけど……っ」
なんか今、真広の言い方のニュアンスが違った気がする。
音の響きは『お父さん』だけど、漢字に変換したら違う文字になってる気がする……!
「最初は市販の物を買おうと思ってたんだ。でも調べるうちに藤崎グループのエクストラ・ブランドのことを知って、絶対これじゃなきゃって思って」
それで直接パパに掛け合い、一大決戦の末、譲ってもらうことに成功したらしい。
ありえない。そんなのわたしにだって不可能だ。
「で、でもお金はどうしたの? 信頼で取引するエクストラ・ブランドって言ってもタダじゃないのよ? パパに払うお金はどうしたの?」
「うん、アルバイト代じゃ頭金にもならなかったから出世払いにしてもらった。でも担保がいるって言われたから、将来は藤崎グループに入社することになったよ」
「内定決めちゃってるーっ!?」
気に入られてる。
真広、これ絶対パパに気に入られてる。
「ちょ、待って。それを渡す相手がわたしってこと……パパは知ってるのよね?」
「? もちろんだよ。だから最初に『娘を奪いにきた男』認定されちゃったわけだし。最後は苦笑いで取引してくれたけどね」
「……っ」
認められてる。
真広、これ完璧にパパに認められてる。
一般人の真広を認めてもらうために、わたしも色々画策しようとしてたのに、もう全部クリアしちゃってるみたい。本当にありえない。
頭がクラクラしてきた。
一方、真広は涼しげな顔でさらに言う。
「ただ、他にも色んな人が将来一緒に働かないかって誘ってくれてるんだ。出世払い分を稼げれば、藤崎グループに入る必要もなくなるし、進路はまだもうちょっと考えようと思う」
「トップ企業の我が社が選択の一つにしかならないって、どういう状況なの……!?」
もうわたしの理解の範疇を越えていた。
ワケが分からない。
わたしの方が高嶺の花だったはずなのに、いつの間にか真広に追い抜かれてしまったような感覚に陥っていた。
悔しい。
なんか本当悔しい。
でも……わたしの知らない真広がいる。
信じられないくらい成長した、男の子の真広がここにいる。
誰かに超えられてしまうなんて経験、わたしには一度としてない。
真広はそれを成し遂げた。
しかも間違いなくわたしのために。
気づけば、すごく……ドキドキしてしまっていた。
逞しくなった真広に緊張して、まともに顔が見られない。
……もう、なんなのよ。
メッソメソに泣かしてあげる作戦だったのに、ちっとも上手くいかない。むしろとことん真広にしてやられてしまっている。
そして。
「優愛。いや――」
熱のこもった真剣な瞳がわたしを見つめた。
「藤崎優愛さん!」
「――は、はいっ!」
ビクッと背筋が伸びた。
真広が小箱の蓋に手を掛ける。
えっ、待って。
わたしのためにここまで駆けずりまわってくれて。
目の前の小箱にはウチのパパに認められた証まであって。
こんな予想以上のサプライズをされちゃったら……。
え、無理っ。
今は無理!
こんな状況で渡されたら、わたしぜったい大変なことになっちゃう……!
「ま、待って、真広っ! 今思ったんだけど、そういう大事なことはあなたじゃなくて、このわたしの方から――」
「待たないよ」
手をかざして止めようとした瞬間、引き寄せてられて――抱き締められてしまった。
「はう!?」
耳元で彼が囁く。
静かに、でも強い意志のこもった声で。
「もう二度と離さない。そう決めたんだ」
「……っ」
体が熱い。
抱き締められた先から燃えるように全身が火照っていく。
「卒業式の時、離れることが俺に出来る唯一のことだと思ってた。でも今は違う。色んな人の色んな思いに助けられて、この手にも無限の可能性があるって気づけた」
だから、と言葉が続く。
「二度と離したりなんてしない。俺は君を一生幸せにする」
二人の間に小箱がかざされ、蓋が開かれる。
文字通りの宝物のように収まっていたのは、ダイヤの指輪。
ああ……。
どうして真広がこの宝石を選んだのか、すぐに理解できた。
ダイヤの宝石言葉は『永遠』。
それは卒業式の日、わたしたちが願ったもの。
きらめく透明な光。
それが思い出させてくれるのは、付き合うことになったクリスマスイブの星と街の灯かり。
真広はわたしたちの終わりと始まりを形にして、こうして贈ろうとしてくれている。
今度こそ、この手のなかでずっと大切にできるように。
以前、唯花さんと理想のプロポーズの話をしたことがある。
わたしは……二人の思い出を大事に抱き締めるようなプロポーズをしてほしかった。
一度は別れてしまったわたしたちだからこそ、哀しいことも嬉しいこともずっと抱き締めていたかった。
涙がにじんだ。
この指輪は……わたしの理想そのものだ。
「今こそ、あの日の約束を果たすよ」
わたしはもう泣いてしまいそうで。
そんなわたしを優しく見つめて。
彼は告げる。
「また会えたら、と願ったその日が――今日だ。藤崎優愛さん!」
葉桜に見守られるなか響くのは。
わたしの願いを叶えてくれる、魔法の言葉。
「俺と結婚して下さい――っ!」
その瞬間、涙が溢れた。
ああ、負けた。
負けちゃった。
わたし、この人が好きだ。
どうしようもなく大好きだ。
夕焼けが美しく正門を照らしていて。
わたしの顔はきっと真っ赤で。
さっきまで余裕だった彼の顔もやっぱり赤くて。
涙のしずくを散らして、わたしは頷く。
「はいっ!」
勢いよく抱き着いて言う。
あの日、諦めと共に言った言葉を。
今度は弾けるような喜びを込めて。
「わたしをお嫁さんにして下さいっ!」
風が吹いた。
新たな季節の到来を告げるように、葉桜がさわさわと音を奏でていく。
耳元に彼の弾けるような声が届いた。
「やった……っ」
プロポーズが成功した喜びの声。
可愛いわねもう、と思った。
成長してもこういうところは変わらないみたい。
ああ、そうだ。
こうなったら……唯花さんが教えてくれたこと、やっちゃおうかな。
男の子は甘えてあげるのが嬉しいらしいから。
せっかくだし、真広に甘えてあげようかな。
「……ねえ、真広」
首元にしがみつきながら囁く。
「……キスしてよ」
「えっ」
「したいでしょ? わたしとキス……」
「したいけどっ、いやでも……っ」
戸惑うような声。
あとまわりを見回すような気配。
でももう放課後だもん。
他の生徒なんているはずない。
「……いいから早く」
「や、でもね……っ」
「いいから……してよぉ」
くいっと真広の袖を引っ張った。
きっとわたしは今、耳まで赤くなっている。
でもいい。
これでいいの。
甘える時は可愛く、そして適度にワガママに。
そんな小悪魔感が男の子には効くに違いない。
だって唯花さんは生徒会室でいつもそうしてるし。
「してほしいの。真広のこと……好きだから」
「……っ!」
「お願い、キスしてよ。今がいいの。今すぐがいいの。あなたが……大好きなの」
「~~っ! このお嬢様は……っ。もうどうなっても知らないからね!?」
真広の手が頬に触れ、わたしは緊張しながら瞼を閉じて、そして――唇が重なった。
心臓が張り裂けそうなほど高鳴る。
やった。
わたしと真広のファーストキスだ……!
直後。
予想外の事態が起きた。
突然、地鳴りのような歓声が響き渡る。
「「「おおおおおおおーっ!!」」」
「へっ!?」
「あー……」
まるで戦国時代の鬨の声。
もしくは競技場でファインプレーが起きた瞬間の観客たち。
「なっ、なになに今の声は!? ――はっ!?」
驚いて周囲を見回し、わたしは度肝を抜かれた。
そこらじゅうに生徒たちがいる。
昇降口、校庭、木々の後ろ、校舎の窓、とにかくありとあらゆる場所に生徒がいて、わたしたちに視線を注いでいた。
「なにこれーっ!?」
「いや、だいぶ前からわらわらと集まってたよ……?」
「真広、気づいてたの!? だったら言いなさいよぅ!?」
「俺も言おうとは思ったんだ……。でも『いいからして』ってお嬢様のご要望だったので……」
「見られていいって意味じゃなーい! っていうか、なんかみんな当たり前のように動画撮ってない!?」
気づけば、生徒たちのほぼ全員がこっちにスマホを向けていた。
しかも野次馬的な雰囲気じゃない。
誰もが使命感に満ちたキリリッとした顔でわたしたちのことを撮っている。
どういうことなのっ、と思っていると、正門の外からなぜか胸元に子猫を入れた三上会長がバイクを押して現れた。
「あー、藤崎は知らなかったか。この学校って公開告白する生徒がいたら、みんなで撮影して後世に残すって伝統があるんだよ」
「なんですか、その悪しき伝統!?」
生徒会室の窓が開いて、唯花さんも手を振ってきた。
「ゆーちゃん、ごめんねー! それ、奏太とあたしのせいで出来ちゃった伝統なの。許してー!」
「何やらかしたんですか、唯花さん!? どうしたらそんな伝統できるんです!?」
そう叫んで、あっと気づいた。
思い出したのは、公開告白に公開キスをした、伝説のカップルの動画。
まさかと思い、わたしは正門前と生徒会室を交互に見る。
秒で確信してしまった。
……あれってこの人たちだわーっ!
愕然としていると、横で真広が「そっか……っ」と何やら気づいた顔をしていた。
「俺と優愛は今、三上会長と如月先輩の伝説と同じところに立ってるんだ。なんてこった……よし、だったら!」
突然、あごをクイッとされた。
「え!? ちょ、真広……!?」
「優愛、俺たちも新しい伝説を作ろう」
「あ、新しい伝説って……っ」
真広の言葉に生徒たちは息を飲み、『おお……!』という期待を込めてスマホを構える。
さらには唯花さんと三上会長までノリノリでスマホを取り出していた。
いやいやいや冗談でしょっ?
でも真広の目は本気だった。
直感した。ここで引いたら一生、主導権を握られてしまう。
そんなのありえない。
今日は一本取られてしまったけど、この藤崎優愛が負けっぱなしなんて絶対ありえないんだから。
わたしは勝負所で下りたりしない。
藤崎優愛はいつだってオールベットなんだから!
「~~っ! ああもうっ、好きにしないさいよーっ!」
「うん、お嬢様の仰せのままに」
チュッと二度目のキス。
瞬間、嵐のようなシャッター音が響き渡った。
生徒たちは大盛り上がり。
唯花さんと三上会長もガッツポーズ。
真広も公衆の面前でわたしの唇を奪い、腹が立つくらい良い顔で笑っている。
ああ、まったく。
あの奥手の化身みたいな真広がここまでするようになるなんて。
嬉しいような、先が怖いような……。
ともあれ。
この日、わたしたちはついに約束を果たして結婚を決めて。
彩峰高校には新たな伝説が生まれたのでした――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
次回、エピローグで一旦完結です。
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