第5話

私は取り敢えず護身用としてカッターナイフを服のポケットに入れた。


森なんて初めて来るため、何が出てくるか分からない。


近くを捜索していると、古びた民家が見つかった。


木造で出来てる為もう随分と痛んでいる。

屋根は今にも落ちてきそうだ。


何件も近くに民家が立ち並んでいるので、恐らく集落だったのだろう。


どうやらこの森は昔人が住んでいたらしい。


だから下水も引かれていたのだろう。


「何か、ここがどの辺りなのか分かるものは無いかしら」


私は再度蝋燭を取り出し周りを物色する。


少し歩くと、開けた土地が出てきた。


ご丁寧に道も敷かれている。


「街に続いているかも!」


私は急いで敷かれている道を頼りに走った。


辺りにちらほら街灯が見え始め、人の声聞こえた。


「やった!」


どうやらすぐ近くに栄えた街があったのだ。


私は蝋燭の火を消して荷物にしまった。


もう深夜3時になろうとしているだろうに、バーの灯りがまだ付いていた。


しかし、何処か泊まれる宿屋はもう流石に閉まっていそうだ。


折角街に着いたのに、これでは野宿することになってしまう。


「これも、仕方ないか…」


私は街を背に向けて、反対の森の方へトボトボと引き換えす。


流石に女1人で夜の街を徘徊するのは危険だろうし、野宿するにしても森の中のもう人が住んでないであろうボロボロの家くらいしか当てがない。


これも、仕方ないと戻ろうとした矢先。


ドンッ


私は前を歩いていた少年とすれ違い様ぶつかってしまった。


「あ、ごめんなさい!

ごめんなさい!」


私は深く頭を何度も下げる。

これはお屋敷での癖だ。


こうして必死に謝らないと、更に酷いことになるから。


「いや、こちらこそごめんなさい。」

そう少年も謝ってきた。

私の過剰な謝罪にびっくりした様だ。


少年は黒いローブにフードをまぶかに被っていた為、あまり顔が見えない。

黒い格好をしていた為気付かずにぶつかってしまったのだろう。


「お怪我はありませんか?」


「はい、大丈夫です。私こそ、突然ぶつかってしまい申し訳ありません。」


こればかりは私の所為だが、相手の少年は、私は大丈夫だから、と宥めてくれた。


優しい人だなあ。


普段人に優しくされていなかったせいか、人の優しさが人一倍身に染みる。


「ところで、こんな時間に森の方へ行くのかい?」


「あ、はい…」


私は言葉を濁す。


「夜の森は危険だよ。オオカミや奥の湖にはワニ何かが住み着いているからね。」


「え、そうなんですか?」


私はゾッとする。


さっき森をウロチョロした時にでく合わさなくて本当に良かった。

やっとお屋敷から抜け出せたのに、オオカミやワニに食べられるなんて死んでも死にきれない。


しかし、これでは八方塞がりだ。


私はもうどうにでもなれと、半ばヤケにこの少年に尋ねることにした。


しかし、人に頼み事なんて普段しない為、どうお願いしたらいいか分からない。


「あ、私、泊まる場所が無くて、それで…」

私はモゴモゴと話す。


「何処か、泊まれる場所はないですか?」



私は優しそうなこの少年に賭けることにした。


どの道、オオカミなんて話を聞かされてはもう森にも戻れない。


「泊まる場所がないの?

なら、私が泊まっているホテルに案内してあげるよ。」


私はこの人を信用していいだろうか?


また継母の様に最初だけ優しくしてるだけかもしれない。


しかし、今の私には彼について行く以外の選択肢がなかった。

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