第3話

私は自室に戻り、すぐ様支度を始めた。


自分の荷物を最低限ボストンバッグに詰める。


私自身の物は大半が盗られたり捨てられたりしているので、そんなに大した量はない。


それとなけなしのダイヤやルビーなどの宝石も持っていく。

これは捨てられたドレスやハイヒールなどの装飾品を集めた物だ。

一応公爵家の物なのだから、素材は一流のものばかりであろう。質に出せばそれなりに売れるはずだ。


それと蝋燭やマッチ、ロープにカッターナイフなどなども鞄に詰め込む。


これは物置から拝借してきたものだ。

なんせ屋敷の外に出ても行く当てがないのだから、最悪野宿かもしれない。

そういうことを見越しての判断だ。


それと忘れてはいけないのが私が虐められてきた証拠の数々だ。


破かれて落書きされた本や私が直筆で今までのことを書き綴った日記、破られたドレスなど。

今まで溜め込んできた証拠品も鞄に詰める。


あとは少しのお金を持って、準備は大体オッケーだ。


「…なんだか悲しいくらいに荷物が少ないわね、まあいいわ。」


そこに丁度メイドが私の部屋に入ってきた。


因みにメイドはノックをするだけでこちらの返事も聞かずに入ってくる様になった。


「お嬢様、こちら明日のお召し物で御座います。」


そう言ってドレスを適当に壁にかける。


恐らく、メイドたちの中にはもう私の味方はいないであろう。


まあ、主人に逆らえないのだから仕方ない。


「ありがとう、下がっていいわ。」


そういうとメイドは頭も下げずにバタンと強めにドアを閉めて出ていった。


「この扱いももう慣れたわ。

でももう最後になるわね。」


しかし、隣国の伯爵が来るとなれば、やはりドレスも気合が入っている。


薄いピンクのレースに装飾品が散りばめられている可愛らしいドレスだ。


私が虐められていることは外部の人は一切知らないので、いつもならみすぼらしい使用人同然の格好をしているが、こういう行事事の時だけはちゃんとしたドレスが用意される。


「まあ、いつも行事が終われば私のドレスはすぐに没収されるのだけれどね。」


そして私はドレスを丁寧に畳んでこちらもボストンバッグに詰めた。

いざという時に使うかもしれない。

使わないなら使わないで売ったらお金になるし。


さて、と。


チラリと時計を見やる。


時刻は夜8時頃を指していた。


「まだ時間があるわね。」


私は長い夜になるであろう覚悟をして、早めに休むことにした。


ベッドに潜りこみ、深く息を吐く。


今日でこの生活とはおさらばだ。

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