集う者たち
真夜中の路地に、老若男女さまざまな人々が三十名ほど集まっている。
私はオーリに話しかけた。
「オーリ。そちらは何人ぐらい来られたのだ?」
「子供たちは一人を除いて、全員が来た。呼べなかったのは……」
「アーシャだろう?」
「そうだよ。あいつは野良猫みたいな奴で、どこにいるのかわからねえ」
「私の方も、常連だった者たちに声を掛けた。しかし、手当たり次第に呼べばいいってわけじゃないからな。人選には苦労したよ」
オーリが集まる面々を見渡して言う。
「城下に広がるヤクミ畑と小麦畑を管理する、大農場主のチャックルズ。剣の達人にして王家ともつながりの深い元騎士団長のクエンティン卿。ナルトやメンマをはじめとする、ラメン食材の流通を仕切る女豪商のナンシー。そして、大錬金術師のタルタル様……そうそうたる顔ぶれじゃねえか!」
その言葉に、私は苦笑する。
「みんな、『今でこそ』だろ? 二十年前はまだ、彼らはただの一市民に過ぎなかったよ」
オーリも静かに同意する。
「そうだな。あの頃はみんな、何の肩書もありゃしなかった。ただラメンが大好きで、タイショのヤタイに集まるだけの気のいい奴らだった……」
と、人々の中に覚えのあるフード姿の背格好を見つけ、私はドキリとした。
「ちょ、ちょっとすまん。オーリ、話はここまでだ!」
「あ? おい、急にどしたよ、リンスィール?」
私はそれには答えずに、フードの人影に近づいて小声で話しかける。
「女王様の行方を知らないかと、エルフの仲間たちに何度も尋ねられましたぞ……まさか、ファーレンハイトにいらっしゃったとは!」
そう。そこにいたのは我らがエルフの女王、アグラリエル様その人だったのである!
フードの影から女王は、落ち着いた声で私に応える。
「久しぶりですね、リンスィール。案ずることはありません。明日にはこの町を出て、里に帰ります」
私は頭を下げながら言う。
「女王様におかれましては、お元気そうで何よりです。しかし、護衛もつけずに黙って里を抜け出すなど、一体どういうおつもりかと思っておりましたが……なるほど。
女王はモジモジしながら言う。
「えっ? ええ、まあ、はい……。そ、そのような所です……時に、リンスィール。これは一体、どういった集まりなのでしょう?」
「……はぁ? まさか女王様、知らずに来られたのですか!?」
女王はフードを少し上げ、すまし顔を覗かせ言った。
「あ、いいえ、知ってはいますよ? もちろん、知っているのですが……一応、あなたの口からも聞いておきたいと思ったまでです」
「かしこまりました、そういう事でありますれば……!」
私は、今日はどういう日なのか、これがどういう集まりなのかを簡単に説明する。
聞き終えた女王は、深刻な顔して
「そうでしたか。今夜は、そのような日だったのですね……」
その言葉に、私は首を捻る。
「あのう、女王様。知ってて、ここにいらっしゃるのですよね?」
女王は胸を張っておっしゃられる。
「当然です。わたくしはこの集まりに出席するため、里を抜け出しはるばる来たのですから!」
怪しい。そもそもレンが話してくれたのが3日前で、女王が消えたのは一週間前だ。
「……本当にご存知でした?」
女王は焦ったように言葉を重ねる。
「ホ、ホントに知ってましたよ……リンスィール、なんですか、その目は!? あなた、わたくしが知ったかぶりをしてるとでも言うつもりですか!」
「あ、いいえ。そういう訳ではありませんが……」
うーむ。私もエルフの里にいた頃は、女王が「知ってた」とおっしゃれば、「すごい、さすがは我らが女王様!」と素直に大喜びしたものだが……しかし、里を出てからもう300年。
金に汚いドワーフや、ずる賢いホビット連中、海千山千のヒューマン族を相手にしてきて、私にも色々と『見える』ようになってしまった。
我らが女王のアグラリエル様は
……どうしてこのお方は、嘘を吐く時に唇を
もっとも古きエルフであり、1600年の時を生きてきた神にも等しき存在だというのに……あ、頰に冷や汗が一滴垂れてる。ああ、今度はつま先で小石を
これは大方、私の手紙を読んでレンのラメン食べたさに里を抜け出し、偶然この場によくわからず居合わせたが、
と、私がため息を吐いた、その時だ。
チャラリ~チャラ~♪ チャラリチャララ~♪
独特の笛の音が響く。
「来たぞ!」
誰かが叫んだ。その声と共に、ガラガラと音を立ててヤタイが姿を現す。
引いているのは、白装束の人物だ。
「……タイショ?」
「いいや、違う。タイショよりも背が高いし、がっしりしてる」
「では、あれがリンスィールの言っていた、息子のレンか!?」
「じゃあ、やっぱりタイショさんは……!」
「……し、死んだのか?」
ざわざわと声が渦巻く路地に、ヤタイは止まる。
今夜のレンは、いつもの半袖とエプロンに厚手の布を目の上に巻いた姿ではない。タイショと同じ白い服に、ねじった布を頭に巻いてた。
彼は無言で鍋に火をかけ、湯を沸かしてスープを温める。
鶏と魚介のいい匂いが、辺りにぷうんと漂い……その香りに魅了され、騒いでいた人々が口をつぐみ。静寂が満ちた。
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