努力の結晶『ラメン』

 我々の目の前に並べられたのは、この二十年間で私が何度も口にしてきた『黄金のメンマ亭のラメン』だった。

 テーブルにはフォークとスプーンも用意されてるが、3人ともワリバシを手に取り、パチンと割る。『ラメン通』はワリバシを使うのが常識だからな……ちなみにこのワリバシ、オーリの手作りであった。


 私はラメンを一口食べて、そのレベルの高さに思わずうなる。

 すっきりとした味わいの澄んだスープに、小麦が香る黄色くちぢれたメン。

 多からず少なからずのヤクミ、チャーシュ、メンマ、ナルトの具材。

 鶏の脂と魚介の味が絶妙にマッチして、そこにしょっぱさがキリリと浮き上がる。

 私はブラドの顔を見て、にっこりと微笑んだ。


「ブラド君……また、腕を上げたね?」


 ブラドも笑って、頭を下げた。


「ありがとうございます、リンスィールさん。だけど、それでもまだ、タイショさんのラメンには届かない……」


 レンは、ブラドのラメンを食べると、感心した顔をした。


「驚いたな……こいつは、ちゃんと中華そばになってるよ。いやはやブラドさん、あんた、大したラーメン職人だ! こんな異世界で子供の頃の記憶だけを頼りに、いちからラーメンを作り上げちまうとはなぁ!」


 ブラドは嬉しそうな顔をする。


「そう言ってもらえると、嬉しいです。僕の命はタイショさんに救っていただいて、義父さんとリンスィールさんに育てていただきましたから。美味しいラメンを作り上げ、お二人に喜んでもらうのが生きがいなんです!」


 それを聞いて、私は目頭が熱くなってしまった。

 タイショの稼ぎが消えてから、オーリの生活は一気に困窮こんきゅうした……彼が引き取った二十人の孤児のうち、何人かは成人していたが、未だ半数以上は子供のままであったからだ。

 それに加えて、オーリはタイショのラメンを再現するため、狂ったように世界中の食材を集めだした。もちろん私も友のため、だいぶ色々と支援させてもらったが……養子であるブラド・ドゥオールの『黄金のメンマ亭』が軌道に乗るまでは、彼らは本当に大変な暮らしをしていたのである。

 彼らは実の親子以上に支えあって、二十年間を歩み続けた……このラメンを食べればわかる。

 二人の出会いは、まことに価値あるものだった!


 ブラドがレンの顔を見つめて、真剣な表情になる。


「それで、レンさん。僕、お願いがあるんですが」


「お願い? なんだ、俺にできることだったら、なんでも言ってくれや!」


 ブラドは真っ直ぐに頭を下げた。


「レンさん……お願いです! 同じラメンシェフとして、僕にあなたの作るラメンを食べさせてください! タイショさんの息子のあなたが、どんな『ラメン』を作るのか、気になって仕方ないんです!」


 その言葉に、私は言った。


「ほほう……いいじゃあないか! どうだね、レン。ひとつ、ブラド君にも食べてもらって、君が作ったのが『本物のラメンかどうか』をジャッジしてもらうというのは……?」


 レンは、ドンブリからスープを飲み干すと立ち上がり、腕組みをして顎をあげるいつものポーズを取って、ニヤリと笑ってブラドに言った。


「いいとも、望むところだぜ! ブラドさん。あんたに、俺の作った極上のラーメンを食わせてやるよ」

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