第20話
施設にいる子供たちは、何かしらの悩みや心の傷を負っている。
保育士も一人の子供にかかりきりになることが出来ないので、どうしても対応が中途半端になってしまうことがしばしばあった。
そこは、融通が利く保育補助の出番である。
如何にも悩みを解決しますという上から目線ではなく、何気ない日常の会話から始まり、相手が多弁になるように仕向ける。
事務処理や雑務は思ったよりも簡単だが、子供たちのケアは一筋縄ではいかない。
下らないことから、深刻な悩みを抱えている子もいる。
勉強の成績が著しく悪い子が居た。
テストの点数は一桁で、成績も後ろから数えた方が早い子だ。
名前は、
腰まであるボサボサのロングヘアに、太い黒縁眼鏡を掛けたいかにも陰キャ代表と表現がぴったりな子だ。
私が入社する半年前に、親の都合で入所してきた子で、重度の人見知りをする子だ。
声を掛けても小さい返事をするだけで、近寄ろうものなら逃げてしまう。
どうも様子を見る限り、同年代か年下には普通に接することが出来るのだが、中学生以上の男女に対しては、明らかに怯えた仕草を見せた。
一度じっくり腰を据えて話してみたいのだが、絶賛避けられ中である。
そんなこんなで、私はどうすれば優花ちゃんと仲良くできるか考えた。
大人がダメなら、動物なら心を開いてくれるのではないかと
「おーちゃん、優花ちゃんをお願いね」
「ニャー」
優花ちゃんは、
今日は、優花ちゃんの様子がおかしい。
それとなく
私は、そろそろ頃合いだろうかと優花ちゃんを呼んだ。
「優花ちゃん、どうしたの? 学校で嫌な事でもあった?」
それとなく探りを入れてみると、彼女は口を噤んで何も言わない。
う~ん、テストの点が悪かったから怒られると思っているのだろうか。
「今日、テストが返ってきたんだよね? 見ても良い?」
私の言葉に、優花ちゃんの肩が大きく揺れた。
これは、怯えられているぞ。
「大丈夫。優花ちゃんが、どんな点をとっても怒らないよ」
「……本当?」
「本当。おーちゃんに誓って嘘は吐かないよ!」
一応頑張って埋めた感はあるが、白い部分が目立つ。
答案用紙には、デカデカと0点と書かれていた。
「優花ちゃんは、勉強は嫌い?」
「……うん」
「そうか。私も勉強は嫌い。優花ちゃんは、ちゃんと問題を解こうとしているだけ偉いよ。私は、鉛筆持つのも面倒臭くて答案用紙に名前だけ書いて出したことあったなぁ。めっちゃ怒られたけど」
「
「物臭だったからね。あ、それは今も変わらないか。優花ちゃんは、読書が好きだよね。後、オカルトな話も」
「うん」
「好きなキャラの台詞や、アニメソングは歌えるでしょう? どうしてだと思う?」
私の質問に優花は、どうしてだろうと暫く考えた後に言った。
「……好きだから?」
「そう。好きだから覚えられるの。人間はね、自分の興味のないことは数分で忘れちゃう頭なの。だから、優花ちゃんが好きな本でお勉強をしようと思って持ってきました」
日本の歴史漫画を差し出すと、彼女はポーカンとした顔で私を見ている。
「漫画?」
「漫画を侮っちゃダメだよ~。教科書に書かれた人物が何をして偉業を成したのかが詳しく書かれた本です。教科書通りに覚えたってつまらないし、頭に入らないのは私で実証済みだから。まずは、卑弥呼が生きた邪馬台国の時代から順を追って読んで勉強だよ。1週間後に、漫画の中身をテストするからね~」
困惑する優花ちゃんに、愛読書の歴史漫画(邪馬台国編)を無理矢理貸した。
これを読んで、どっぷりと歴史に嵌ってくれたら良いなと淡い期待を抱いていた。
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