第19話

 夕食時、私は先輩社員の田中さんから皆に紹介されることとなった。

「今日からお世話になります。荷納かのうかがみです。私の家族のおーちゃんこと、鶯宿おうしゅく共々よろしくお願いします」

 鶯宿おうしゅくを抱っこながら挨拶をすると、

「ネコだ~」

「可愛い♡」

などの黄色い悲鳴があちらこちらから上がっている。

 鶯宿おうしゅくの魅了にやられたんだね。

 うんうん、分かるよ。

「おーちゃんは、少し人見知りするけど時間が経てば近くで寛いだりすると思うから慣れるまでは見守ってあげてね」

 触りたそうにウズウズしている子供たちに釘を刺すと、直ぐに状況を理解したのかソワソワと遠巻きに鶯宿おうしゅくを見守っている。

 ペット同伴出勤可能な職場だけあって、子供たちのペットに対する対応は素晴らしいの一言に尽きる。

「私、おーちゃんのこと何処かで見たことある気がする」

「俺もー」

 見たことがあるのは当然だ。

 なんせ、職場まで鶯宿おうしゅくを連れて散歩していたのだ。

 どこかで見かけてもおかしくなはい。

「皆が見たことがあるのは、多分散歩していた時かもしれないね」

 そう説明すると、殆どの子達は納得したようだった。

 鶯宿おうしゅくが、『Catch the cat!』の猫ということは暫く伏せておこう。

 バレた時にでも対処すれば良いかと、この時は安直に考えていた。

 私の初出社は、自己紹介と軽い雑務で終わった。


 仕事を初めてから、3ヶ月が経過し簡単な仕事を任されている。

 勤務形態として、朝番(6時~16時)・日勤(10時~19時)・昼番(13時~22時)・夜勤(17時~10時/仮眠7時間)の3種類がある。

 研修6ヶ月は昼番で、その後からシフト制へと移行するとのこと。

 現在、在籍している職員さんの負担が減るのは早くて半年後になりそうだ。

 そんなに待遇が良くて良いのか? とも思ったが、実際働いてみると時間通りに上がることが出来ないことが判明した。

 保育補助と言っても、仕事内容はあまり変わらない。

 担当する子供がいない分、雑用や書類仕事は他の社員の比ではない。

 未だに手書き書類で業務をこなしていることに対し、私は効率の悪さを訴えてパソコン導入を直談判した。

 書類作成は勿論のこと、ペーパーレスにもなって環境にも良い。

 データも常にバックアップを取っていれば、大惨事になることはないだろう。

 パソコンへ移行するにあたり、年配社員でも分かるシステムを構築した。

 毎回手書きの書類を清書したくないで御座る!

 よく使う書類から、年に数回しか使わない書類まで全てデータ化させて貰った。

 年配職員たちには不評だったが、使い方を教えたら通常よりも1/10で終わる便利さに気付いたのか、効率化スキルで構築されたプログラムは、概ね好評だった。

 私は、クイーンジムが売り出している『フリーノ』という電子メモを愛用している。

 クラウド上にデータが残る為、自宅に戻っても読み返せるし、何より仕事が出来る!

 教わった仕事の方法も個人差はあるものの、大体どういう流れで日勤の仕事が掴めて来た。

 鶯宿おうしゅくは、私が担当している3ホームと4ホームの部屋のどこかにいる。

 最近は、先住猫や同僚と同伴出勤しているペットと一緒にいるところを見かけるが、今のところ問題もないようでちょっとホッとしていた。

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