第18話

 入社式は、園長室で行われた。

 園長の塩田しおたより簡単な挨拶と、直属の上司と教育係になる先輩方を紹介された。

 暗記スキルがなかったら、顔と名前を覚えていられるか危うい。

 各々簡単な自己紹介を終えた後、チラチラと鶯宿おうしゅくをガン見している一部の方々に鶯宿おうしゅくを紹介した。

「私の家族の鶯宿おうしゅくです。生後3ヶ月半です。少し人見知りする子ですが、直ぐにデレるので安心して下さい」

 簡単に鶯宿おうしゅくを説明すると、宜しくなと言わんばかりに鶯宿おうしゅくがニャーと鳴いた。

荷納かのうさん、その猫ちゃん『Catch the cat!』のスマートフォンアプリでダウンロードできる猫ちゃんじゃない?」

「はい。我が家の稼ぎ頭です。おーちゃんは、自分の食い扶持を自分で稼いじゃう凄い子なんですよ」

 鶯宿おうしゅくを撫でながら自慢すると、

「職場にいる間なら写メとっても良い?」

と鼻息荒く聞いてこられたので困った。

 その写真を個人で楽しむなら問題ないのだが、誰かと共有したりするのであれば、肖像権の侵害になる。

 それに、折角立ち上げたアプリの売り上げに水を差すような事になるのは遠慮願いたい。

 私は少し悩んだ後に、条件付きで了承した。

 まずは3つ条件を出した。

 施設内で取った写真を他人に見せて自慢したり、許可なくデータをあげたりしないこと。

 鶯宿おうしゅくが嫌がったら写真および動画の撮影はしないこと。

 SNSで鶯宿おうしゅくの画像や動画をアップしないこと。

 1つでも違反があったら、データ削除の上、肖像権侵害で訴えると念書を書いて貰うことにした。

 そこまでするか? と思われるかもしれないが、念には念を入れておかないとね!

 鶯宿おうしゅくの非公式の画像や動画が外部流出しなければ良い話だ。

 ただ、大人よりも子供たちの方が少し心配ではある。

「個人で楽しむ分なら撮影は良いんですね?」

「良いですよ。ただし、データの管理だけはしっかりして頂ければですが」

 私の返事に対し、鶯宿おうしゅくファンは心なしか浮かれている。

「外部への広報で鶯宿おうしゅくちゃんを使用することは可能だろうか?」

 塩田しおた園長に聞かれ、

「少額で良いので、きちんと撮影料を納めて頂ければ構いませんよ」

と答えておいた。

 一応アプリで稼いでいるので、その辺りの線引きはしておかなければならないと思っている。

「どれくらいが一般的な金額なんだろうか?」

「施設での生活を納めた写真をアプリ内で使わせて頂けるなら、1ポーズ1000円でどうでしょう。撮った写真の加工を加工してお渡ししますので、それを使用されるのであれば営利目的で無ければ何回使っても文句は言いませんよ」

「そんなに安くて良いのかい?」

「その代わり、施設にいる動物たちと戯れるおーちゃんの写真をアプリ内で使わせて下さい。勿論、特定できないように細心の注意を払います」

 まあ、ご近所さんとかにはバレると思うけど、そこまで目くじらは立てる気はない。

「子供たちが写真に写り込むことがないのであれば構わないよ」

 塩田しおた園長からの許可も下り、職場での鶯宿おうしゅくの撮影が許可された。

 他の動物たちとのコラボが楽しみだ。

「朝食前と夕食後にお看経かんきんがありますので、その時に全員が集まるので皆さんの挨拶の場にしたいと思います」

 聞きなれない言葉に、一人口を明けてポケーッとしていたのがバレたのか、塩田しおた園長は私のために詳しく説明をしてくれた。

「ここでは、毎日仏様に祈りを捧げてます。それをお看経かんきんと言います。大体10分ほどお経を唱えて、10分間、持ち回りで皆の前でお話をする時間と思って頂ければ結構ですよ」

「分かりました」

「では、一先ず各ホームへ行って子供たちに挨拶をしてから仕事に入って下さい」

 綺麗に締めくくられ、少々脱線した入社式だったが、無事に終えることができた。

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