第5話

 実質上、クビが確定したことは仕方がない。

 二ヶ月半の猶予がある。

 貯金は殆どないし、失業保険が入るのは手続きをして3ヶ月後になる。

 絶対、会社都合で退職させる気はないだろう。

 そもそも、離職票が直ぐに届くとも限らない。

 経理はガバガバ。

 営業事務以外の雑務を押し付けてくる職場だ。

 こっそり、退職直前に自分で離職票やその他諸々の手続きを準備しておいた方が良いのかもしれない。

 鑑定様のレベルも上がり、今の私のステータスはこんな感じだ。


名前:荷納かのうかがみ

種族:人間

職業:交渉師/SUB:なし

性別:女

年齢:26歳

体力:220/220

知力:210

腕力:12

攻撃:15

防御:11

精神:1000

称号:社畜の鏡

固有能力:収納3・鑑定6・忍耐13・並列思考11・最適化14

後天能力:不眠耐性2・速読1・暗記3・交渉1・話術2


 能力が追加される条件としては、適性があり反復して行うことだと推測する。

 逆に適正がなければ、時間をかけても能力の開花はない。

 固有能力が先天性のもので、後天能力は頑張れば身に付けることが能力らしい。

 因みに、営業部エースの正岡まさおかは、交渉6・話術10が固有能力だった。

 奴の職業がペテン師だったのが気になるところではある。

 次の職探しは堪った有給休暇期間中に活動するとして、噂の出どころと証拠固め、会社を潰す決定的なものを集めなければならない。

 私が新規開拓して得た担当者と、馴染みの担当者の引継ぎ先を決める必要もある。

 どうしようかな~と書類を裁きながら考えていたら、ハゲもとい津田つだ部長が正岡まさおかを連れて私のデスクにやってきた。

荷納かのう君、君の担当している顧客は全て彼に引き継ぐように」

「彼にですか? 正岡まさおかさん、現時点で相当な顧客を抱えていますよね。私のもとなると、難しいのではないでしょうか。掲載の契約は取れても、広告の制作は殆ど営業事務さんに丸投げされてますし。入稿の締め切り30分前に駆け込みで仕事を押し付けてくることもあるじゃないですか。とてもじゃないですが、お任せ出来ませんよ。私の顧客は、時間にルーズで調子のいいことしか言わない方は嫌いな人が多いので無理です」

 私の反論に、正岡まさおかの顔は真っ赤になっている。

 津田つだ部長は、赤くなったり青くなったりと忙しい。

 正岡まさおかに私の仕事を引き継ぎさせたいのは、奴が縁故採用で入社してきたことを知っているからだ。

 ゴマすりのために、私が苦労して取ってきた仕事をチャランポランな馬鹿に渡したくはない。

「私の後任をしっかり任せられる方に引き継ぎするので、口出ししないで下さい」

と煽って見たら、盛大に切れられました。

「上司を何だと思っているんだ! 君の勝手な判断が、まかり通ると思うな!! これは、部長命令だ。正岡まさおか君に引き継ぎしろ」

 上司命令の言質は取ったので、後はどうなっても知らん。

 会社は潰す気でいたが、取引先には迷惑を掛けたくなかったのに。

 本当に残念だ。

 引継ぎが終われば、速攻有給休暇の消化に入ってやる。

 その時に、謝罪行脚して私の印象ダウンを回避しよう。

「……分かりました。引継ぎで取引先への挨拶周りもしたいので、時間の調整をお願いします」

「大した金額も落とさない小口顧客に会うだけ時間の無駄だろう。データだけ寄こして、貴女が先方へ一言連絡をすれば済む話だと思いますけど」

と、面倒臭そうに返された。

 予想通りの言葉に、私は内心ガッツポーズを決めた。

 お望み通りにしてあげようじゃないか。

 後で泣きついてきても知らん。

「分かりました。引継ぎの挨拶周りと資料の作成があるので、急な仕事は手伝えません。構いませんよね?」

「分かった。分かった。さっさと仕事に戻れ」

 念のため、ノー残業ノー休日出勤を表明したし、言質も取った。

 後は、スキルを活用して会社潰しと名誉棄損の慰謝料を捥ぎ取るために奮闘します!

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