第4話
スキルに目覚めてから、私の日常は一変した。
社畜なことには変わりないのだけれど、スキルを上手く使うことで営業成績も徐々に伸びている。
何てことは無い。
鑑定様で相手の情報をまるっと丸裸にして、好む話題を振りつつ親近感を覚えた辺りで、営業をそれとなくかけてみるのだ。
暗記のスキルが上がったことで、数回言葉を交わした相手や会話の内容も覚えていられるのは便利だ。
D・カネギーは、人は自分の名前を非常に大切にしていると言った。
自分の関心は、常に自分に向いているとも明言している。
私は、それに倣ってその人の一番関心があることをリサーチし、不自然にならないように言葉を選びながら話題を振る。
どんな些細なことでも、その話題に興味が無くても、聞き役に徹し肯定するだけで「話し上手の
ビジネス本を読み漁った甲斐があったというものだ。
着々と営業の成績も伸びているが、今までのポンコツぶりからすると急成長したようなものなので枕営業でもしたんじゃないかと誰かが言い出した。
現在、その件でヅラ部長に呼び出しを喰らってます。
「何故、ここに呼び出されたかは分かっているかね」
「営業成績が伸びた事に対する労いの言葉を頂けるんでしょうか?」
ヅラ部長こと
「君の営業成績が、今月に入って随分と上がった。本来なら、それは喜ばしいことだ。しかし、君が枕営業をしているという噂が社内中に広がっているのだよ」
「真っ赤なデマです」
即答で否定してみたが、悲しいかな
「火のないところに煙は立たぬと言うだろう。私はね、君の技量で営業部エースの
今までのポンコツぶりなら、そう言われても仕方がない。
いつも最低目標をギリギリ超えられるかどうかをウロウロしていたのだから、疑いたくなっても仕方がない。
地道な努力も結果が伴わなければ無価値と評価する会社に、私の評価を根本から変えるのは無理な話かもしれない。
「私の性格上、営業に向いていないと自覚していましたので営業のノウハウが書かれたビジネス本を沢山読みました。少しずつ実践して、やっと目に見える成果につながったんです。大体、二十歳後半の冴えない女に言い寄られて契約してくれると思います?」
どこからどう見ても平均的な顔立ちで、凹凸のない身体に引っかかる男がいるとは思えないのだが。
「いや、まあそうだが……。んんっ、真偽はともかく我が社に枕営業をしている営業員がいるなどと噂になっている以上は、君を会社に置いておくことは出来ない」
「解雇ということですか?」
「そうは言っていない。営業に席はないと言っているのだよ」
そもそも、うちの会社は小さな広告代理店だってこと忘れてんのか?
実質上のクビ宣告に、さてどうしたものか。
このまま居座ったところで、今以上に給与は減らされるうえに嫌がらせで仕事を大量に押し付けてくるのは目に見えている。
嫌がらせで使い潰されるのも嫌だが、このまま何もしないで辞めるのも腹が立つ。
「……分かりました。私の担当しているクライアントの引継ぎや、有給休暇の消化もあるので退職日は再来月末でお願いします」
私の返事に、
何もしないで会社を辞めると思ったら大間違いだ。
キッチリ取るものは取って辞めてやる!
私は、急遽決まった退職に憤慨しながら会社とデマを流した奴にどう復讐してやろうかと考えを巡らせた。
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