邪龍の手先は勇者の同郷です

大艦巨砲主義!

第0話 世界の命運を賭けた決戦

 ––––その世界は、絶望に覆われていた。

 災厄の化身、すべての魔物を統括する神に刃向かった最強にして最恐の存在『邪龍』。

 かの太古にして最古の魔物が率いる魔物たちの軍勢の侵略により、人類をはじめとする世界に住まうあらゆる生命は滅亡の危機に瀕していた。


 邪龍の力は強大であり、何者も太刀打ちできない。

 まさに災厄。

 人がいかに矮小な存在であるかを知らしめる天災であった。


 邪龍の侵略により大地は荒廃し、生命は狩り尽くされ、人々は安寧を失った。

 絶望に覆われた世界にあって、人類は勝てぬ存在であることを承知で、しかし対話することのできないこの最強の魔物の侵略に抗い続けた。

 そうしなければ生き残れなかったから。

 隠れて死ぬか、戦って死ぬかの二択。

 他に選択肢はなかった。


 しかし、そんな絶望に覆われた世界に一筋の光が差し込む。

 人類が滅亡の危機に瀕する中、彼らの信仰する女神が聖女へ天啓をもたらした。


 ––––異世界より勇者を召喚せよ。かの存在は、必ずや邪龍を討ち果たす。


 異世界より勇者を召喚する。

 女神にその術を与えられた聖女は、その一筋の希望にすがった。

 邪龍の力は圧倒的であり、人類に独力で侵略に抗う力は残っていなかった。


 そして藁にもすがる思いで女神の天啓を受けた聖女に従い、人類は異世界より勇者となる存在を召喚する儀式を行う。


 ––––そして、勇者は召喚された。


 勇者は『ニホン』という世界から召喚された年端もいかない少年少女たちであった。

 だが、彼らは見た目と裏腹に女神より加護を授かり、勇者にふさわしい人知を超えた超人的な力を有していた。


 彼らの登場は戦局を一変させる。

 それまで邪龍率いる魔物の軍勢になすすべなく蹂躙されるばかりであった人類は、勇者を先頭に反撃に打って出た。


 勇者たちは一騎当千の力を発揮し、魔物たちを蹴散らしていく。

 人類は勇者の力を持って、魔物に奪われた領地を奪還していき、遂には邪龍の根城へ乗り込むに至った。


 そして、戦いは最終局面へ。

 邪龍の待ち受ける最後の戦場に勇者たちは乗り込む。


「覚悟しろ、邪龍!」


 先頭に立って邪龍の元に乗り込んだのは、青と銀のきらびやかな軽鎧に身を包み、刀身が黄金色の光で構成される剣を携えた、快活そうな印象を与える日焼けした浅黒い肌をした少年。

 彼は勇者たちのリーダーで、名前は『高金たかがね 剛志つよし』という。

 異世界に突如として召喚されたことに戸惑っていた勇者たちをまとめ、女神に元の世界に無事に帰れることを約束させてこの戦いに挑み引っ張ってきた、勇者たちと人類の先導者と言える中心的人物である。


「1人で突っ走るな戯け!」


 高金に続く形で突入してきたのは、背中まで届く黒髪をポニーテールにまとめ、赤と白の重厚な騎士鎧を身にまとい、人丈ほどある巨大な盾を持ち背中に同じく巨大なランスを背負う、凛とした雰囲気をまとう少女。

 彼女は勇者たちの副リーダー格であり、名前は『霧島きりしま彩香あやか』。

 その有り余る正義感から1人で突っ走りがちな高金を諌め、邪龍の策謀から幾度も仲間たちを助けてきた参謀であり、また良きブレーキ役として勇者たちを支えてきた人物である。


「オラ、覚悟しろよクソ邪龍––––コホン。みんな、最後の戦いだよ!私たちの手で、この世界に平和を取り戻そうね♪」


 続けて突入してきたのは、闘志みなぎる凶暴な笑みを浮かべていたが、直後にその表情を愛嬌ある笑顔に変貌させた、西洋の水兵のような水色と青の服にセーラーハットという出で立ちに、銃口の下に短剣を装着したライフルを携える小柄な少女。

 彼女は勇者たちの切込隊長で、名前は『比叡ひえい 明日香あすか』。

 明るく愛嬌ある面と、時折見せる怒りっぽい面の2つの顔を持ち、銃剣を手に魔物の大群が相手であろうと果敢に先陣を切り進んでいく、仲間たちの奮起を促し鼓舞することを得意とする、勇者たちだけでなく異世界の人類にとっての士気の起爆剤、旗頭のような存在として活躍する人物である。

 ……ちなみに、本人にその意思は無く。先陣を切るのは単にブチ切れているからであるが。


「ま、待ってよ……お、お姉ちゃん……!」


 そして邪龍討伐チームの最後尾で入ってきたのは、修道服に身を包み見るからに重たく取り扱うには苦労するだろう分厚く大きな十字を表紙に描いている本を携え、背中にはそのシスター然とした出で立ちには明らかに似合っていない槍のような巨大なメスを背負った長身の少女。

 彼女は勇者たちの回復役で、名前は『比叡ひえい 明日菜あすな』。

 明日香の双子の妹であり、明日香とは対照的に臆病ながらも心優しい性格で、女神に与えられた治癒の奇跡を駆使し敵味方問わず傷ついた者たちを癒してきた、聖女のような人物である。


 他にも数人の彼らとともに召喚された勇者がいるが、今は邪龍と高金たちが戦えるように魔物の軍勢とそれを率いる幹部クラスの魔物たちを抑えるために戦っているため、この場にはいない。

 仲間たちから邪龍の討伐を託された高金率いる4人の勇者が、人類を代表してこの最恐の魔物に挑もうとしていた。


 そんな彼らを睥睨するのは、世界を飲み込まんとするほどの巨大な黒い龍。

 外見は体表が黒いこと、全長400mというその想像を絶する巨体ということ以外は、シンプルなトカゲをベースとした体躯に2つのツノと2枚の翼を宿すドラゴンである。

 それこそ、魔物たちを率いてこの世界全てを滅ぼさんとする最強にして最恐、最古にして原初の魔物である、邪龍である。


「来タカ……勇者共ヨ」


 到来した勇者たちは、邪龍から見れば羽虫のような小さく無力な存在である。

 だが、配下の魔物たちを次々となぎ倒しここまで自身の侵略を跳ね返してきたその強さに、邪龍は勇者たちに対して一定の評価をしていた。


 ゆえに、邪龍にとってはすでに勇者たちは無力な羽虫ではない。

 巨体を持ち上げ立ち上がった邪龍は、世界の命運をかけてこの場に立つ勇者たちを見下ろし、力を見せてみろと言わんばかりの挨拶代わりの死を呼ぶ獄炎のブレスを放った。


「みんな俺の後ろに––––うおっ!?」

「戯けが、貴様が下がれ!」


 邪龍の放つブレスを真正面から打ち破ろうとした高金。

 しかし、一歩の間違えが即敗北につながりかねない最強の魔物を前に無駄な力を使おうとした高金を即座に霧島が掴んで自分の後ろに下がらせる。

 そしてその手に持つ巨大な盾を背後に仲間たちをかばいながら構えて、邪龍のブレスを正面から受け止めた。


「ホウ……少シハ出来ルカ」


 普通の生物ならば灰すら残らず焼き尽くされるそのブレスだが、勇者たちはその攻撃を無傷で耐え抜いた。

 その姿に、邪龍はやはり人類の様な矮小な存在とは違うと勇者の存在を再確認する。

 己に挑む資格は辛うじてある、脆弱だが無力ではない敵として。


「行くぞ邪龍!」


 高金が光の剣を構えて飛び上がる。


「面白イ……我ヲ楽シマセロ、女神ノ勇者共!」


 それを迎え撃つ邪龍。


 勇者たちは圧倒的強者に、持てる全ての力を賭けて、この世界の命運をかける戦いへと挑んでいった。




























 ––––そして、この日。

 世界に長らく絶望をもたらし続けてきた最強の魔物は、異世界より召喚された英雄たちの手を持って討ち斃された。

 世界に、ついに平和がもたらされたのである。


 だが、勇者たちは気づかなかった。

 倒した邪龍は、魂のみとなってなおも生き永らえたことに。


 そしてそれが、新たなこの世界の争乱をもたらすこととなる。

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