第六話「死刑ごっこ」

A子と B子、そして C子は小さな頃から、ずっと仲良し。

お互い、最高の友だち同士だった。


トイレに行くのもいっしょ。

カラオケに行くのもいっしょ。

男の子たちとデートをするのもいっしょ。

つまり、ずっといっしょだった。


三人が中学生になって、初めての夏休み。

ヒマを持て余していた A子が言った。


「ねぇ、みんな。最近、ちょっと刺激不足じゃない?」


B子とC子はうなずいた。

だって、三人はいつもいっしょ。

A子が退屈なら、二人だって退屈だ。


「何か面白いこと、やってみようよ」

「面白いことって?」


首をかしげる B 子と C 子。

クスッと笑って A 子は言った。


「たとえば……、自殺ごっことか」

「ヤだよ、そんなの!! ふきんしん、じゃない!!」


ギョッとして、声を荒らげたのは C 子だった。

普段はおとなしくて、口数も少ない C 子。

思いがけない反応に A 子はおどろいた。


そして、ちょっとだけムカついた。

なによ、C 子ったら、ムキになっちゃって。

ほんの冗談だったのに。


何だか白けてしまって、その日は三人とも何も言わずに別れてしまった。


三人の関係が変わったのは、次の日。

A 子と B 子は学校で待ち伏せて、C 子を階段から軽く突き飛ばしてみた。

踊り場に大げさに転んだ C 子に向かって、A 子はイジワルく言ってやった。


「あらら、C 子ちゃん。あんた、あんなこと言っといて、やっぱり自殺ごっこやりたかった

んじゃないの」


アッという間だった。

クラスのみんなが C 子の「自殺ごっこ」の面白さに気がついたのは。

それからは、クラスみんなで C 子の「自殺ごっこ」につきあってあげることにした。


クラス全員で C 子の顔を叩いてみたり……。


机の上に花びんをおそなえしてみたり……。


黒板消しを投げつけて、C 子の制服を真っ白にしてみたり……。


C 子の口のなかに落ち葉やら、虫の死がいを突っ込んでみたり……。


そんなことを半年ほど続けたある日。

C子が死んじゃった。


屋上から飛び降りて、C 子は死んじゃった。

ごっこじゃなくて、ホントの自殺だった。


それからは大騒ぎだった。

A 子たち、C 子のクラスメイトたちがやったことは、日本じゅうに知れ渡った。


テレビが A 子たちが C 子に付きあってあげた「自殺ごっこ」について、詳しく伝え…

…。


インターネットでは、A 子たちの顔写真やプロフィールが無断で掲載され……。


A 子たちの通う学校には、毎日、脅迫状がドッサリ。

毎日毎日、ウンザリするほど毎日。


そんなある日。

全校の生徒たちが講堂に集められ、校長先生から命の大切さに関するありがたーいお

話を聞いてる最中。


頭のおかしい男の人が手にハンマーを持って乱入してきた。


「お前たちがいじめっ子か!! 成敗してやる!!」


自分じゃ正義の味方のつもりの男の人は、ハンマーを振り回して大暴れ。

何人も何人も、生徒を殴り殺した。

B 子も逃げ遅れて、頭をボッコリへこまされて死んじゃった。


そして A 子は今、待っている。

雨戸を閉めて真っ暗になった自分の部屋で、膝を抱えて待っている。

そのうちはじまる、世間から自分への「死刑ごっこ」を震えながら待っている。


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災話─都市伝説─  和田 賢一 @wadaken

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