第四話 「無すんな」
ある日、僕は買い物に出かけ、交差点にさしかかった。
学校の行き来につかう、見慣れた交差点だ。
その真ん中に女の人が一人、立っているのが見えた。女の人はひどい怪我をしているみたいで、全身、血だらけだった。
事故にでもあったんだろうか、と僕は思った。
周りの人たちは女の人に気が付かないのか、誰も助けてあげようとはしなかった。
まるで、そこにいる女の人が見えてない、とでもいうかのように。
僕が不思議に思っているうちに、信号が青に変わった。
僕は横断歩道を歩き始めた。
女の人のすぐそばを歩かなければいけないのは、嫌だったけれど、そこを通らなくては家に帰れない。
怪我をしている女の人がかわいそうだとは思ったけれど、子供の僕じゃどうしてあげようもない。
ごめんなさい、と心の中で謝りながら僕は女の人の前を通り過ぎようとした。
と、その時だった。
肩に、何かがのっかる感触がした。
驚いて振り返ると、僕の肩に女の人が顔をのせていた。
真っ赤に充血した目を細めて、女の人が笑った。
そして、低い声で僕にこう言ったんだ。
「お前も、無視、してんじゃねーよ……」
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