○月❤︎日

そうか、私は、死んでしまっていたのか。




どうして気がつかなかったのだろう。


もしくは、気がついててずっと見て見ぬフリをしていたのか。


「玲香、ごめんね」


彼が謝ってくる。


「玲香に逢うには、こうやって自殺しようとしないと現れなくて、嫌がってるのは分かってたけど、やめられなくて」


「…そう、だったんだ」


私は力なく応える。


ずっと、彼の自殺理由が分からなかった。


彼は、私に逢いたいだけだったんだ。


それなのに、私はずっと分からなくて、怒ってばかりで。


私は悲しくて俯いた。


すると、手元に先ほど彼から取り上げたカッターナイフが視界に入った。


彼と私が生きている世界が違うなら。



私はカッターナイフを彼に向ける。


「…ねぇ、一真は死んでも一緒に居てくれる?」


彼はスッと私を見つめてこう答えた。


「玲香が望むなら、いいよ。

俺もあの世に一緒に行くよ。」


彼はそう微笑んだ。


そうして彼は目を瞑る。


私はカッターナイフを振り上げて、


そして。


カシャンと、カッターナイフは床へと落ちた。


「…きない、できないよ。」


私は涙を拭いながら、必死で言葉を絞り出す。


「ずっと、かず、まのこと、ヒック、とめてたのに、グスッ、生きてほしい、って、思ってた、のに」


私はその場にしゃがみ込んで泣いた。


「うっ、う、うわああああぁぁぁん!」


そんな私の頭をぽんぽんと彼は撫でてくれた。


「うん、分かってたよ、ごめんね」


「な、なんで、一真が、ヒック、謝るのよ、誰も悪く、ないのに、グスッ」


「うん、そうだね」


そう言って、私が泣き止むまで頭を撫でてくれた。


「…ありがとう、大分落ち着いた」


私は涙で瞼を腫らしながら答える。


「うん、良かった、泣き止んでくれて」


彼は少し悲しそうに微笑みながらそう言った。


「私ね、あの日、本当は一真にプレゼント渡したかったの」


そう彼女がボソッと呟く。


「うん、手作りのチョコレート、ちゃんと受け取ったよ。美味しかった、ありがとう」


私は少し照れ臭かった。


「それとね、本当は、プレゼントを渡しながら伝えたいことがあったの」


私は一呼吸ふぅ、と置いて、彼を見ながら先を続ける。


「私は黒澤一真くんが大好きです。」


やっと、ちゃんと言えた。


「うん。俺も大好きだよ。」


「本当!?振られたらどうしようかと」


私は安心して多分相当にやけていたと思う。


「振られるとでも思ったの?」

そう言いながらも彼も顔が少しにやけていた。


「でも、最後まで分からないじゃない!一真、顔に表情出さないし!」


すると彼は少しいたずらっぽい顔で


「ねぇ、キスしてもいい?」


と聞いてきた。


「え?え、うん、い、いいよ!?」


めちゃくちゃ動揺して声が少し裏返ってしまった。


彼の顔がだんだん近くにくる。


恥ずかしくて、きゅっと目を瞑る。


チュ


唇が、柔らかいものに触れる。


目を開けると、彼は真っ赤な顔をしていた。


「顔真っ赤じゃん」


「そっちこそ」


恐らく私もそうとう茹で蛸みたいに真っ赤なのだろう。


お互いおかしくてふふっと笑ってしまった。


すると、私の身体がきらきらと光り出した。


「え、え何これ?」


「ねえ、透けてきてない?」

彼は私の体をぎゅっと抱きしめた。


「嫌だよ、せっかく両想いになれたのに」


彼は少し震えていた。


私は、何となく察してしまった。


「私、多分一真に告白出来なかったのが心残りだったんだ」


「俺は、玲香がいない方が心残りだよ!」


いつも大人しい彼が珍しく大声を出す。


「うん、でも、もう無理みたい。

きっと私、成仏しちゃうんだ。」


私は、彼の肩に手を置いて、私を抱きしめてる彼をグッと引き離す。


「ごめんね、私、もう逝くね」


「嫌だよ、まだ、一緒にずっといたいよ!」


「うん、ごめん。」

私は微笑みながら彼にどうしても伝えたい言葉を伝える。


「お願い、どうか

笑って、生きて」


「玲香、待って、玲香!」




そうして私の身体は光に包まれて消えてしまった。

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