○月◇日

学校の校門付近に立っている大きな桜の木には、下に死体が埋められてるなんて噂があったりする。


「そんな噂、本当かな?」

そう言いながらやはり彼、黒澤 一真はその桜の木の枝にロープをかけて余りのロープで輪っかを作っているところだった。


「ねえ、一真って馬鹿なの?」


私、斎藤 玲香は彼の動きに思わずツッコミを入れる。


「ロープ明らかに長すぎでしょ、それじゃ首を輪っかに入れても吊れないでしょ」


彼は椅子にも登らず、自分の肩くらいの高さにロープの輪っかを作っていた。

誰がどう見ても高校1年生の男子を吊る長さではない。


「あ、本当だ」

輪っかを作り終わって、ふぅ、と一息吐きながら彼はまるで何とも思ってない様にその言葉を言った。


「あ、本当だ、じゃないわよ!

毎度毎度私が結構心配して自殺止めてるのに、あんた本当は死ぬ気ないでしょ!?」


「それよりあの噂って本当かな?」


私の全力の叫びはあっさりとスルーされてしまった。

とても腹立たしい。


「噂なんて、所詮噂でしょ?実際、桜の色は品種なんかで決まっているし、桜の下に死体が埋まっていようといまいと変わらないわよ」


私は少し怒りながら答える。

私としては桜の噂なんかより、目の前にいる男の自殺未遂の方が余程気にかかるのだが。


「そっか、埋まってても埋まってなくても変わらないか」


「…まるで、人の心みたいだね」


彼は小さくボソッと何かを呟いたのだが、風の音にかき消されて私にはよく聞こえなかった。


「なんか今言った?」


「いや、何にも」


ところで、と私は話を変える。


「今回は、何で自殺しようとしたの?」


「んー、桜の木の下に本当に死体があるなら、一人じゃ寂しいだろうし、俺なんかでも一緒に居たらマシかなーって」


「はあ!?」

相変わらず発想が訳わからない。


「あんたそんな下らない理由で死にたいの!?」


彼はまた頭を下げてごめん、と言う。


私はその頭をこれでもかと言うくらいに掻き乱してやった。


「いい加減にしてよね!次また変な理由で自殺しようとしたら承知しないから!」


「うん、分かったよ」

そういう彼は何故か少し微笑んでる様に見えた。

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