最後のゴールの行方は……

ポンポン帝国

最後のゴールの行方は……。

「ナイッシュー!!」


 体育館内に響き渡る声援。つく度に鳴るバスケットボールの音に、キュッキュと響くバスケットシューズの靴音。


 僕達が今いるのは県内の一番大きな体育館だ。


 今日、行われているのは高校バスケットボールの県大会、ベスト四が優勝を争う決勝リーグだ。今、やっている試合が最終戦で、ここまでお互い二勝無敗。事実上決勝戦である。この試合で勝った方が全国大会への切符を手にする事が出来る。


「最終クォーター、気合い入れて頑張るぞ!! 全国へ行くのは俺達だ!!」


 仲間達がコートへ向かっていく。僕もそれに続いていく。僕のポジションはポイントガード。ゲームメイク、ボール運びがメインの仕事だ。


 ここまでの試合は抜きつ抜かれつの大接戦。まだどちらが勝つか全くわからない状態だ。どちらも流れを掴めきれていない。


 審判の笛と共に試合の再開。僕達から攻める。相手のディフェンスはハーフマンツー。特定の相手選手を決めて、その相手にぴったりつくディフェンス方法だ。


 パスをもらいドリブルをつく。ここまで三クォーター分、一進一退の試合を続けてきた為、お互いの疲労もピークに達してきている。ここからは僕のゲームメイクが勝敗を左右してくると言っても過言じゃないだろう。冷静に、そう、僕は常に冷静にゲームメイクを続ける。


「左手は添えるだけ」


 うん、それ今日だけでも五回ははずしてる。却下。


「要チェックや!!」


 もはや、それ選手ですらない!!


 よくこれで決勝リーグまで来れたなって? それは、僕のチームには絶対的エースがいるからだ。これまでの試合の殆どを引っ張ってきたと言える程の絶対的エースだ。


 だが、バスケットボールは個人だけで出来るスポーツじゃない。NBAのスター選手ですら、百点の内、五十点がせいぜいだ。


 だからこそ、絶対的なエースがいても、それに頼り切る訳にはいかないんだ。


「左手は添えるだけ」


 ええい、うるさい!!


「要チェックや!!」


 陵南へ帰れ!!


 僕の思考をかき乱すなああああああ!! ある意味相手より仲間の方が恐ろしい。頼り切ってはいけないのわかっている。だけど、ここはエースに託すしかなかった。


 エースへボールが渡ると、相手のディフェンスの顔つきが変わる。この試合だけでもう三十点やられてるんだ。顔つきも変わってくるだろう。


 それでもエースは突き進んでいく。目の前のディフェンスを抜き、そのままレイアップへ。


 お互い得点を重ねていく。僕達は絶対的エースが中心に。相手チームは全員で……。残り三分を切り、ここへきてエースの様子がおかしくなってきた。


 汗が凄い。肩も上下に激しく動いて呼吸をしている。


 ……くそ! ここへきてエースにばかり頼ってきた事が裏目に出た。明らかに疲労が溜まってしまっている。それでもエースは止まらない。






 逆転を許して、残り十三秒。タイムアウトもお互い使い切った状態。僕達の最後の攻める時間だ。ここからは選手達の判断一つで勝敗が決まってしまう。みんなが興奮状態だからこそ、ここでも僕は冷静に、そう冷静にゲームメイクを進めるんだ。


 ここはエースに渡すべきか、それとも……。正直、他の仲間も疲労が溜まっており、上手くポジションが取れていない。これまで僕は冷静にゲームメイクをする事だけを徹底してきた。相手の癖も把握している。いつもの冷静な僕ならこんな判断はしなかったと思う。けど、それでもここは、僕が行くしかない!!


 直感に従ってドリブル! 三十九分もの間、ゲームメイクをしながら相手をずっと観察していた。まずは僕のマークマン。右へフェイントを入れて左へ、抜く!


 次のディフェンスが寄ってきた。このディフェンダーは左右の揺さぶりが苦手だ。ドリブルを大きく左右に、相手を揺さぶっていく。そしてここ!! 二人目を抜き去った!


立て続けに三人目、四人目のディフェンスが僕の前に立ちふさがる。僕のドリブル力で果たして抜けるだろうか。僕達のエースはいつもこの不安と戦いながら試合をしてたんだな……。この時になって初めてエースの気持ちがわかった気がした。


 「うおおおおおおおおおお!!」


 大きく右へサイドステップをする。そうすると三人目と四人目の間に隙間が出来た。


 ここだ!! 間をくぐり抜けるようにトップスピードでぶち抜いた!


 残り時間も少ない。僕はこのままトップスピードでゴールへ向かう。


 最後の砦。相手ディフェンスはセンターだ。僕より二十センチは大きい身長に、それに見合った体格。それでも僕は負けられない。


 そのままシュートしても、レイアップしてもこのままじゃブロックされてしまう。どうする? どうする? 僕の足は速い。エース以外まだ僕の仲間達は僕より後ろにいる。


 ここでエースに出すか、それとも僕が多少無理してでもこのまま行くか。時間がない!


 僕は自分の直感に従った! ここはエースにパスを出す!! と見せかけてフェイクをしてそのままレイアップに向かった! 相手ディフェンスは騙されて体勢を崩しながらもこちらにジャンプしてブロックを狙ってきた。


 このままじゃブロックされる!! 普通にレイアップをしてもこのままじゃブロックされると判断した僕はそれをフェイクに一度空中でボールを掴む。そしてそのブロックをかわして再びシュートへ!!


 シュートと共に試合終了のブザーが鳴る。ダブルクラッチをした僕は、体勢を崩したまま倒れる。


 シュートはどうなった!? ゴールを見る。ボールはリングをぐるぐる回っている。もの凄く長い時間に感じた。入るのか、入らないのか。


 ボールはリングに吸い込まれるように入っていった。


 勝った!! 僕達は勝ったんだ!!


 みんなのところに飛び込む!! みんな喜んでいた!! だけど、絶対的エースは泣いていた。


「すまない。一番大事なところで俺は、俺は役に立てなかった……」


「そんな事ない! 僕達は今まで君に頼りすぎてたんだ。最後の最後にそれに気づけた。これからはみんなで一緒に頑張ろうよ!!」


「ありがとう。ありがとう」


 僕は、冷静になんて言ってたけど、結局エースに甘えてただけだったんだ。それがエースの負担になってたんだ。最後の最後になってそれに気づく事が出来た。優勝出来た事より、それが一番嬉しかった!!


「全国行っても優勝目指して頑張ろうぜ!!」


「「「「オオオオォォォォォォ!!」」」」


 僕達の戦いは終わらない。

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