第164話

「こうして対面でお話するのは初めてですわね。わたくしは、ジョーズ・フォン・アングロサクソン大公が娘、リリアン・フォン・アングロサクソンと申します。わたくしが、学園不在の時に色々とやらかして下さり、各所から大量の抗議を受けましたの。これから、貴女に対してヘリオトロープの会と白薔薇の会を中心に被害に遭われた方々のケアをさせて頂きました。ええ、本当に大変だったのですよ」

 私は部下に丸投げしたので、実際大変だったのはキャロル達だろう。

「そんなの知らないわ! 私は悪くない!!」

「学園に来る前に貴族としての最低のマナーは教えられなかったのかしら?」

 教えられていたら、あそこまで露骨な態度や破廉恥な行動を取りはしないのだろうが、どっちだ?

 ジーッと観察するように見つめていると、コレットはウーウーと唸り声を上げた。

「あんたも転生者なんでしょう!! 悪役令嬢なのに『Holy Maiden~ドキドキ★メモリアル ~』のヒロインの座をかすめ取ろうとしているじゃない! 何であんたが良くて、私がダメなのよ」

 大声で喚く言葉は、確かに日本からの転生者でなければ分からない単語がある。

 彼女の様子からすると、コレット自身がヒロインの座を狙ったわけか。

 それはそれで美味しいことになったのだが、仮に正攻法でアルベルトと結ばれたとしても、王太子妃になれるわけではない。

 アルベルトの現時点の態度から鑑みて、ピューレ男爵に入り降下する形になる。

 その時点でかなり詰んでいる。

 コレットのいう『Holy Maiden~ドキドキ★メモリアル ~』と言うのも気になる。

 コレットの使い道と言えば、その情報を引き出すだけで後は用済みとなる。

 もしかすると、イグニスあたりが知っているかもしれない。

 フリックが傍に控えているが、後で幾らでも誤魔化せる。

 誤魔化せなかったとしても、どうも私に忠誠を誓っているっぽいので他言はしないだろう。

 コンマ0.3秒で導き出した答えは、コレットの挑発に乗ってやることにした。

「人は死ねば、輪廻を巡り何度も転生する生物だと東方の国で言い伝えられておりますわ。だから、わたくしも転生者ですね。『大体、センスの無いゲームのタイトル! 巻き込まれ系・召還系の話は嫌いなのよ。どうせなら神ゲーム・オメガバンパイアくらいやってなさいよね!』」

 最後は神言しんごんで語ってやった。

 相手が日本人の転生者なら、私の言葉くらい容易に理解できるだろうという計算の上で言った言葉だ。

 言葉の内容は、大した意味はない。ないったらない。

「は? え?? ちょっ、え???」

 何やら頭が追い付いていないらしいコレットに、私は冷めた紅茶を口に含んで喉を潤した。

 暫く茫然自失していたコレットが、三杯目のお茶で再起動し始めた。

「あんた、乙女ゲームだからアルベルトを攻略したんじゃなかったの?」

「政略に決まっているでしょう。でなければ、あんな青臭い糞ガキのお守りなんてしたくなくてよ。貴方こそ、アレのどこが良くて粉をかけていたのかしら? 顔以外で答えて頂戴」

「……王族だから。後、お金?」

 最後のお金に関して疑問符を抱いているのは、多分アルベルトが金に汚いことを身を持って知ったから、結婚したとしても贅沢はさせて貰えないんじゃないかと考えているのかもしれない。

「あの馬鹿を穏便に引き取ってくれるのなら、どんなご令嬢でも良かったし、文句もありません。ですが、貴女はどうでしたか? 殿下を筆頭に色々な男性と関係を持っては、のらりくらりと決定的な発言を避けて逃げ回ってましたわね。ピューレ家は、貴女が引き起こした不祥事の責任を取るために多額の示談金を用意せねばなりません。そして、今回の件でコレット嬢の社交界復帰は永遠に閉ざされています。色狂いの養父が、貴女を庇うでしょうか? 今からでも身の振り方を考えた方が宜しいかと思いますわ」

 そう告げると、コレットの顔色は真っ青を通り越して真っ白になった。

 そんな彼女を放り出すのは、良心が痛むのでフリックに使っていない部屋に泊まらせるように伝えた。

 勿論、食事も出しましたよ。

 私、そこまで鬼じゃないんで。

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