第161話
「さて皆さん、あなた方は今日からわたくしの奴隷となりました。自身を買い戻すために、しっかりと働いて下さいませ。勤務態度や能力によって、お支払いする給金が変わります。新しいスキルや珍しいスキルを得た方も、能力の一つと判断して給金に反映することを誓います。初任給は、手取りで金貨一枚と大銀貨八枚です。そこから家賃と食費を引いた金額、金貨一枚と大銀貨二枚があなた方の手元に残るお金です。いくら返金に回すかは、あなた方の自由とします。こちらの提示する条件や技術を習得した者に関しては、別途手当が出ます。ここまでは、理解出来ましたか?」
奴隷なので一生ただ働きさせられると思っていた者も多かったようで、衝撃が走ったように唖然茫然となっていた。
でも、まだ伝えないといけないことが残っている。
「ここで働いているのは、あなた方だけではありません。平民、貴族、他の奴隷や、犯罪奴隷もおります。しかし、同じ職場で働く仲間だと思って接して下さい。質問があるならどうぞ」
「あの……流石に、犯罪奴隷と一緒に仕事するのは危険じゃありませんか?」
おずおずと手を挙げて、犯罪奴隷の危険性に言及する子がいた。
まあ、隣の人間が犯罪者だったら怖いだろう。
しかし、犯罪と言ってもピンキリである。
窃盗のような軽犯罪から殺人までの重罪と色々だ。
犯罪奴隷の大半は、窃盗罪や詐欺罪が多い。
殺人までやらかしているなら、物理的に首と胴が分かれているか、鉱山へ送られるかだ。
「犯罪と一口に言っても、彼らは軽い罪を犯した者達ばかりです。犯罪奴隷達には、多少の制限がつきますが無害なので安心なさって下さい。自身を買い戻した後、衣食住がセットになった就職先もあります。有能な方は、是非わたくしのヘリオト商会で働きませんか?」
と締めくくった。
奴隷解放を素直に喜べる人は、どれだけいるだろうか。
買い戻し出来たとしても、それまでの契約となってしまえば、直ぐに金に困るだろう。
継続して長く働いてくれる人を私は確保したい。
そんな黒い思惑を隠した甘言に、奴隷達は泣いて喜んでいる。
「ありがとう御座います。ありがとう御座います……」
感謝する者から拝まれるのは、かなり精神にくるね。
家で働いている奴隷達からも、時々拝まれているのは知っているが、実際に堂々とされるのは嫌だな。
「急な環境の変化で戸惑うこともあるでしょう。あなた方は、まずこの
隣に立っていたフリックに声を掛けると、彼は流れるような美しい礼を見せて言った。
「初めまして、アングロサクソン家の執事長を務めております。フリック・スーと申します。本日から、あなた方の上司となります。基本的にあなた方には、先輩となるメイド達をつけます。業務内容で判断出来ないことや、困ったことがあれば、遠慮なく私に申し出て下さい。どんな小さなことでも構いません。私からは以上です」
フリックの簡単な挨拶に、私は大満足だ。
「まずは、身なりを整えることが最初の仕事よ。フリック、彼らをお風呂場まで案内しなさい。着替えは、予備のメイド服や見習い執事の服で十分でしょう。ルールールは、わたくしが綺麗にしますわ」
「……お嬢様、くれぐれも変な気は起こさないで下さいね」
半眼で私を見るフリックに、ぷくぅと頬を膨らませ唇を尖らせる。
「失礼ね。外でブラッシングした後に、わたくしと一緒に湯あみをするだけじゃない」
「前半は兎も角、後半はお嬢様の欲望が駄々洩れですよ。毛玉が言いながら、水の
「今は不在だから無理ね。それに、目つきが悪いから却下。ルールールは、特殊だからわたくし自身が相手をします。何かあっても、複数の加護持ちであるわたくしの前では何も出来ないわ」
闇の精霊が何か仕掛けて来ても、どうにかできる自信がある。
私の意思が固いのを悟ったフリックは、ルールール以外を連れてホールを出て行った。
ホールの隅でガタガタと震えているルールールに声を掛ける。
「大丈夫、身体を綺麗にして心をスッキリさせましょう。それが終われば、おやつタイムですわ」
怖くないよ~と笑みを浮かべてみるも、ビビられている。
流石に獣人族が操る言語を習得していないので、
『ルールール、わたくしの側なら精霊達が守ってくれるわ。だから安心しなさい』
『ウソいう。ちがう?』
『精霊に誓って嘘はつかないわ』
『…………分かった』
沈黙の後に、頑なだったルールールから了承は取れた。
私は、彼女を暖かな中庭へ案内した。
途中、メイドに動物用のブラシを中庭に持ってきて欲しいと伝言を頼んでおいた。
中庭について、日当たりが良く一番気持ちのいいスポットにルールールーを寝転ばせてブラッシングを堪能したのだった。
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