第159話

「ごく一部の孤児院で、人身売買が行われているのはご存じ?」

「はい。理由は色々とありますが、奉公と里親に出されて音信不通になった子が多いようですね」

「話を一からする必要がなくて済むから楽ね。どちらのケースにしても、本人が家出したと言えば、探す手立てはありません。裕福な家庭で大切に育てられていたのであれば、本気で捜索に乗り出しそうなものですが。最初から奴隷として売るために引き取ったのなら、探さないでしょうね」

 ユーフェリア教会管轄の孤児院で、そんなことが罷り通っている。

 全てではない。

 本当に一部の馬鹿どもが犯した罪のしわ寄せが、今私に来ているのだ。

 聖女なんて肩書要らねぇ。

 本気マジで返したいとさえ思う。

「一理ありますね。しかし、どうやって買い戻すつもりですか?」

「わたくしの管轄下にある孤児院は、全て洗っております。流石に過去何十年前もの分まで遡れません。十年前までに売られた者のみを探し出して買い戻して下さいな。お金は、こちらで用意致しますわ。当人が、今の生活を望んでいるのであれば無理強いはしないと誓います」

 奴隷に身を落として幸せな生活を送っているのであれば、それはそれで良い。

 しかし、全ての者が幸せとは程遠い世界で生きていると考えてしまうのは、他の奴隷商会を見て来たからだろうか。

「買い戻した後は、どうなさるおつもりですか? 買い戻して終わりでは、彼らが奴隷というのは変わりありません。私の商会で雇える者にも限りはあります」

「わたくしが、仕事を斡旋しますわ。その前に、ある程度の教育を施しますが」

 向上心のある人は好きだ。

 賢ければなお良し。

「教育ですか……」

「あら、不安そうな顔ですね。わたくし、これでも優しいのですよ。聖女ですから」

 自分で聖女とか言っちゃうあたり、もう中二病をこじらせていることを公言してるみたいで嫌だ。

 でも、我慢。

 これも、お仕事の一環だと思えば良い。

 ルーゼウスは、私の顔をジーッと見ている。

 なかなか鑑定出来ないのだろう。

 私は、チラッとフリックを見ると

「ルーゼウス殿、他言無用でお願いします。他言すれば、明日は冷たい水の中にいるかもしれませんよ」

 などと、フリックは空恐ろしいことを笑みを浮かべて言った。

 流石、暗殺者。言うことが過激すぎる。止めないけど。

「誰にも漏らしたりしません!」

 ルーゼウスから言質を取り、風の精霊に頼んで遮音魔法をかけて貰う。

 鑑定眼鏡を外して、言った。

「どうぞ、鑑定なさって下さいませ。フリック、貴方も眼鏡を一旦外しなさい」

 私の護衛としての格の違いを見せてやりなさいと心の中で呟いた。

 フリックも眼鏡をテーブルの上に置き、二人してルーゼウスの顔を伺う。

 いや~、真っ青を通り越して真っ白になっている。

 特に、フリックを見た時の顔は恐怖で引き攣っていて笑えた。

「もう宜しいかしら?」

 そう確認すると、ルーゼウスの頭が縦に高速で動いている。

 お前は、あかべこか!?

 暫し沈黙が流れた後、ルーゼウスはハァと大きな溜息を吐いた。

「……好奇心を出すんじゃなかった」

「それは人間の摂理ですわ。仕方がありません。お互いのことは、これで隠し事なしということで良いでしょう。そうそう、貴方や貴方の部下がわたくしの利益を損じるようなことがあれば精霊うちの子達が黙ってませんのでお気をつけ下さいませ」

 上位精霊ならともかく、下位精霊は基本的に自由奔放な幼稚園児並みの頭しかない。

 私絡みになると、結構過激なことをやらかしかねないので一応忠告をしておいた。

「勿論です! 私はまだ死にたくありません」

「なら、宜しくてよ。今、貴方が抱える奴隷たちを見せて貰っても良いかしら? わたくしが求める奴隷が居れば買うわ。勿論、即金で」

 パンと両手を叩いて、先程の緊張した空気を消し去り、商売の話へと切り替える。

 奴隷を買うという言葉に、ルーゼウスの顔色も戻り仕事と割り切ったのか、しっかりと切り替えが出来ている。

 こいつ、欲しいわ。

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