第158話
軽くジャブを打ったつもりが、どうやらクリティカルヒットを繰り出してしまったみたいだ。
フリックのダメ押しが、止めになったようだ。
「貴女も鑑定持ちなのですか?」
「違います。色々と伝があるのですよ。魔力コントロールの未熟さを魔銃器でカバーしているといったところかしら」
「………」
ニッコリと笑みを浮かべながら、自分が使う獲物と使用している理由まで当てられてはぐうの音も出ないのだろう。
押し黙るルーゼウスに、私は話しを続ける。
「わたくしと手を組みましょう」
「手を組むとは?」
「言葉通りの意味でしてよ。ヘリオト商会と業務提携を結んで欲しいの」
ヘリオト商会という言葉に、ルーゼウスの瞳が困惑した色になる。
おーおー、ビビってますな。
急成長して今や一代で巨額な富を築いた猛者の商会からのお声がけに、ルーゼウスも相当混乱しているようだ。
私がヘリオト商会の会頭をしていることは、ごく一部の限られた者しか知りえない情報だ。
ルーゼウスが、知らなくても何ら不思議はない。
「アングロサクソン家が、ヘリオト商会と懇意であることは存じています。しかし、業務提携の話を関係ない第三者が口を挟める問題ではありません」
「あら、関係なら大有りでしてよ。ヘリオト商会の会頭は、わたくし自身ですもの。わたくしが立ち上げた商会に口出しできないなんておかしな話ですこと」
パラリと扇子を広げて、目を細めならが相手の出方を伺う。
隣に座るフリックは、鞄から契約書や万年筆、朱肉を取り出してテーブルの上に置いてスタンバイしている。
「……ご冗談を」
「わたくし、時間とお金の無駄が大嫌いなのです。次いで、笑えない冗談も嫌いですわ。ヘリオト商会の契約は、高度な精霊魔法で行われているのはご存じ?」
「ええ、噂には聞いてます」
「その魔法を発動できるのは、今のところ作成者のわたくしだけですわ。重要な契約ほど複雑にしているので、今は簡略化したものでも、それなりの効果が出る契約書を作りたいと思っているのよ。それで話を戻すけれど、わたくしにつく気はないかしら?」
ニコニコと笑みを浮かべつつ勧誘を試みる。
断られたら潰せば良いや、なんておくびにも出さないけどね!
そんな私の考えを呼んだのか、ルーゼウスは大きな溜息を吐いた。
「分かりました。業務提携をしましょう。断れば潰されかねません」
「物分かりが早くて助かりますわ。フリック、書類をお渡しして」
「どうぞ、こちらが契約書で御座います」
精霊魔法をふんだんに使った契約書は、勿論日本語でビッチリと書かれている。
契約書の裏側に米粒ほどの大きさの字で、カタカムナ文字を使って重要な契約事項を書いておいた。
ルーゼウスは契約書を手に取り、不利益な契約がないか何度も読み返している。
「この契約であれば、こちらが不利益を被ることはありませんね。寧ろ、利益があるのは私の商会の方ではありませんか」
何か裏があるんじゃないかと疑っているようだが、精霊魔法の契約書には私のサインが入っているので、違えれば私にペナルティが課されてしまう。
「最初に申し上げましたでしょう。わたくしの目的は、不当に売られた者達の買い戻しですわ。他の奴隷商会は、犯罪に手を染めて話にならなかった。だから、貴方に目をつけた。貴方に買われた奴隷たちは幸せね。攫われた親元に帰してあげているんだもの。最も、帰る場所が無い子には商会の手伝いをさせているのでしょう。気に入ったわ」
多少後ろ暗い部分があっても、大罪を犯していないなら良い。
「それに、わたくしの商会と手を結べば、販路が拡大しましてよ」
最大の利点を伝えると、ルーゼウスは暫く唸った後、大きな溜息を吐いて『是』と返した。
ルーゼウスは、契約書にサインし拇印を押した。
これで、クランシャフト商会はヘリオト商会の完全子会社となった。
基本的にルーゼウスがクランシャフト商会を運営することは変わりないが、奴隷の買い付けは違法に売られた者に限るとしてあるので、これに気付くのは先の話だろう。
「前置きはこれくらいにして、本題の奴隷購入について話をしましょうか」
私は、ルーゼウスのサインが入った契約書一式を鞄にしまい話の続きを促した。
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