第157話

 やってきました、クランシャフト商会!

 今まで見て来た奴隷商の中で、一番清潔だった。

 奴隷の扱いも悪くない。

 フリックは、白に近いグレーと称していたので比較的まともな商会なのかもしれない。

 働く従業員を観察していると、元奴隷が多かった。

 奴隷時代から仕えている者が殆どだ。

「お嬢様、旦那様、こちらへどうぞ」

 従業員に促されるように、通された部屋はシンプルだけど相当お金をかけている品が綺麗に嫌味なく配置されている。

 思わず、ホゥと溜息が漏れた。

「只今、会頭が参ります。暫くお待ちください」

 そう告げられ、他の従業員がお茶を入れて出してくれた。

 流石は、一流の商会だ。

 従業員の躾も行き届いている。

 しかし、何故会頭自らが出てくるのかは疑問だ。

 お茶を飲みながら、会頭を待つことにした。



 会頭が現れたのは、十分ほどだ。

 待たされている間に、お茶を二回もお代わりしてしまった。

 ここで出されているお茶、とても美味しいんだもの。

 鑑定では、ナリス北部で栽培されている高級茶葉と出ていた。

 ナリスと交易をしている可能性は非常に高いだろう。

 国交断絶とまではいかないが、イーサント国はナリスを仮想敵国として位置付けている。

 個人間の貿易は自由だが、国家間の貿易はあまり盛んに行われていないのが現状だ。

「初めまして、レディー・リリアン。私は、当商会の会頭をしているルーゼウスと申します。本日は、どの奴隷をお求めに?」

 チラッとフリックを見ながら、こちらへの警戒は行っていない様子。

 受付でもアシュリーと名乗っていたのに、速攻でバレている。

 髪色も変えたし、詐欺メイクで元のキツイ顔立ちを地味女に変貌させた。

 普通なら気付かないはずなのだが、ルーゼウスが鑑定系のスキルを持っている可能性が高い。

 鑑定眼鏡でルーゼウスを調べたら、色々とツッコミたいことが判明した。


名 前:ルーゼウス

職 業:奴隷商人 ダーク・バルチザン

レベル:72

体 力:1176

物 攻:134

物 防:114

魔 攻:399

魔 防:255

器用さ:325

素早さ:109

会 心:277

運  :282

連 携:22

Move :3

jump :2

スキル:生活魔法3  射撃11 鑑定9

加 護:なし

称 号:異世界転生者


 こんなところでも異世界転生者と遭遇するとは……。

 私が認識しているだけで最低3人はいる。

 この世界は、厄介者を押し付ける墓場なんだろうか。

 創造神よ、もっと頑張ってくれよ。

 思わず愚痴を零したくなった。

 鑑定スキルがあるってことは、こちらの鑑定眼鏡に保険をかけておいて良かった。

 鑑定されたとき用の鑑定阻害魔法が自動発動出来るようにしておいて良かった。

「不当に売られた奴隷の買い戻しですわ。まさか、わたくしの名前を当てるとは流石鑑定持ちですわね」

 売られた喧嘩は買いまっせ。

 少し突いて煽ると、ルーゼウスは目を大きく見開いで私を凝視している。

「……ははは、ご冗談を」

「この部屋に入る時に、鑑定魔法を発動させましたでしょう? マジックキャンセルさせて頂きましたの。わたくしも、貴方の同胞でしてよ。貴方がどんな武器を扱うかは存じませんが、個人的にワルサーP38が好きです」

「……カリオストロの城」

 ルーゼウスは、探るような目で私を見ている。

 有名なアニメ映画のタイトルに対し、私は一番印象のあった名台詞で返した。

「ヤツはとんでもないモノを盗んでいきました。あなたの心です」

「成るほど、貴女に隠し事をしても得策ではないようだ。しかし、不当に売られた奴隷を買い戻すとのことだが。この国の国民を奴隷として売買するのは禁止されているが?」

「ええ、そうね。でも、海外から奴隷を買い付けることは規制されていないわ。里子として養子に出され、海外国籍を持ったらどうかしら。そう、例えばお隣の国とか」

 ルーゼウスがどこまで把握しているか確かめるために鎌をかけると、彼は大きな溜息を吐いて肩を竦めた。

「成るほど、話が見えてきました。それで、私のところへ来たんですね」

「ルーゼウス様をお調した際に、法の穴を掻い潜って多少危ないことをされているようですが、人柄は問題ないと判断致しました。お嬢様のために、良い手足になることでしょう」

 フリックに鑑定眼鏡を渡さなくても良かったのではないか、と少しばかり思う。

 こいつの情報収集力パネェな!

 しかも、サラッと下僕発言しているし。

 言った本人は顔色一つ変えていない。

 一方、ルーゼウスの顔色は悪い。

「わたくしのことを嗅ぎまわっていたのも存じておりますよ。この商会は、他に比べてまだ信用が出来そうです。わたくしの要望は、聞き入れて貰えそうかしら?」

 疑問形で質問しておきならが、「はい」の選択肢しか与えていない。

 私のバックにあるものや、フリックのプレッシャーもあるのだろう。

 ルーゼウスは、少し間を開けて是と返事を返した。

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