第5話

 週一日の休みを確保することに成功しました。

 提案から試験的に取り組み本採用になるまで2ヵ月かかりました。

 長かった……。

 一日の殆どは椅子とお友達なので、適度に運動したいのですよ。

 最近、ぽっちゃりしてきたかなーと思っていたので。

 子供のころのぽっちゃりは可愛いで済まされるけど、年齢が上がれば見苦しいと言われる。

 朝っぱらからヨガとラジオ体操をしていたら、侍女に見られました。

 私の奇行は華麗に無視(スルー)され、どうしてそんな事をしているのかと聞かれたので答えましたとも。

「最近、ぽっちゃりしてきた気がするからダイエットするのよ!」

 体形を隠すようなドレスは来たくないでござる!

 寝間着は比較的に動きやすいので、朝運動するには丁度良い。

 どうせ運動した後に、湯あみしてからドレス着ることになるし。

 私の答えに、侍女の目がギラッと光って怖かった。

「その変な踊りで痩せるんですか?」

「踊りじゃないんだけど。体操? まあ、継続すれば身体が引き締まるよ。新陳代謝も良くなるから必然的に痩せるかな」

「是非、私にも教えて下さい!!」

「別に良いけど、その代わり動きやすい服を用意してくれる? 朝は、別に寝間着でも良いんだけど。日中にするとなると、ドレスでは無理だからね」

 交換条件を出すと、即答で了承した。

「リリアン様、このユリアにお任せ下さい! 誰にもバレずにご用意致します」

 ユリアの意気込みに気圧されながら、お願いねと頼んでおいた。

 取敢えず明日から少し早めに起きて明日から一緒にダイエットすることを約束し、折角の休日なので気分転換に屋敷の外に出て街を見て回ることにした。

 五年も家に引き籠っていたわけだし、外の世界も見るべきだと思うのよ。

 父には、適当に社会科見学と称して少々強引だったけど許可は得た。

 まあ、護衛付きなので豪商の娘程度に見られるくらいの服装で街を散策しようと思っていたのだが、思わぬアクシデントがあった。

 お察しの通り迷子になりました。

 生まれてこの方、屋敷より外に出たことがないんです。

 中世ヨーロッパ風の街並みにテンションMAXでウインドショッピングを楽しんでいたら、いつの間にか護衛とはぐれてしまった。

 お金は持ち合わせてないし、私が大公の孫娘だと知れたら面倒臭いことになる。

 どうしようかなーと考えた結果、小銭を稼ぐことにしました。

 道を歩く花束を持った男に声を掛けてみる。

「そこのお兄さん、今日は好い人とお出かけですか?」

 声かけられた男は、私を見て怪訝そうな顔をされた。

 私は気にせずに更に声を掛けた。

「これから人と会うなら、そこの靴やで靴を磨いてもらうと良い。後、爪が伸びているから爪切りを借りて切ることをお勧めするよ」

「俺が恋人に会うってなんで分かるんだ」

「私には分かるからさ。恋人さんへ大事な話をするんだろう」

 私の言葉に男は吃驚した顔で凝視してくる。

「今日、結婚を申し込もうと思っていたんだ」

 背伸びしたお洒落した格好に花束、恋人のキーワード。

 恋人未満なら告白だと判断出来るが、恋人なら結婚を申し込むだろうと当たりを付けて誘導して何をするのか言葉を引き出すことに成功した。

 後は、こっちの独壇場である。

「結婚を承諾してくれるだろうか?」

「おっと、これ以上はお金を払ってくれないと答えられないよ」

「幾らだ?」

「そこの屋台で売っている串刺しと同じ値段で良いよ」

 向かいにある屋台を指さして言うと、銅貨を1枚渡された。

「お兄さん、銅貨2枚足りないよ」

 私が指摘すると、彼はバツ悪そうに銅貨2枚を掌に乗せてきた。

「人を見かけで判断すると痛い目を見るから気を付けた方が良いよ。銅貨3枚分の情報は教えてあげるよ。結論から言えば、その恰好で申し込んでも断られる確率が高いね。身に着けている物や第一印象で全てが決まる。頑張ってお洒落をしているようだけど、靴が汚れていては台無しだ。手も爪が伸びていて、余りいい印象は抱かない。さっき助言した通りに身だしなみを整えてから、恋人に会う事をお勧めするよ。良い返事が貰えるかは、貴方の魅力次第さ」

「ありがとう。断られるんじゃないかって不安だったんだ。試してみるよ」

「貴方に幸あらんことを」

 晴れやかな笑顔を浮かべた男は、私の助言通りに靴屋へ入って行った。

 結婚が出来るとは断言してないから、まあセーフでしょう。

 次は誰をカモにしようかなーと物色いていたら、一部始終を見ていた屋台のおっさんに人生相談されたので、銅貨3枚分の情報だけ与えた。

 屋台で串肉を食っている傍ら、物珍しさで私に質問してくる連中を遠慮なくカモにして小金を巻き上げていたら、漸く護衛が私を見つけ出してくれました。

 色々と言いたい事もあったんだろうが、人生相談と言う名の占いをしている私を見て脱力した護衛達に巻き上げたお金で串肉を奢ってあげた。

 串肉如きで懐柔出来なくて、結局私が迷子になった経緯を父に報告されてガッツリ〆られました。

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