第6話
迷子事件で年の近い者に護衛させると、父から通達がありました。
大人目線では視界から消えてしまい見失いやすいという事で、私と同い年の男女が遊び相手兼護衛になった。
アリーシャ・エバンスとガリオン・エバンスの双子ちゃんです。
「初めまして、リリアン・フォン・アングロサクソンと申します。アリーシャ、ガリオン、共に遊び学び良き隣人であり良き部下であることを願います。至らぬ点があると思います。遠慮はいりません。どんどん意見なさって下さいませ」
そう挨拶したら、ポッカーンとした顔をされた。
幼女が、そんな流暢に挨拶する時点でおかしいもんね。
分かるが、それを顔に出すのはマイナス点かな。
追々、ポーカーフェイスを身に着けてくれれば良い。
「アリーシャ・エバンスです。リリアンさま、よろしくおねがいします」
「ガリオン・エバンスです。よろしくおねがいします」
ガチガチに緊張している双子に、私は手を差し出した。
頭にクエスチョンマークを浮かべている二人の手を握り握手した。
「二人共よろしくね! 読み書きと算術は出来る?」
「「出来ません」」
まだ、五歳だし仕方がないか。
「じゃあ、二人も一緒に私と勉強するわよ!!」
勉強の単語に、ガリオンが顔を顰めた。
ガリオンは勉強が嫌いなのか。
アリーシャは、逆に顔がパァッと明るくなっている。
二人共とても分かり易い。
「……ごえいってきいてたのに」
「知識がある方が、自分の進みたい道の幅が広くなるわよ」
「どういうことですか?」
「例えばこの国…イーサント国軍の兵士となった場合、隊長クラスの人間は書類を作り報告を行う義務が発生致します。その時に読み書き出来ないとなると出世コースから外れます。また、算術が出来ないと街で何かを買ったり売ったりする時に悪い商人に騙されてしまう可能性があるのですよ。腕が立つのは良い事であり、自分を売り込む材料になります。しかし、読み書きや算術が出来なければ冒険者と大した違いはない。冒険者を雇えば急場は凌げるのです。ガリオンは、将来何になりたいですか?」
「オレは……」
「ああ、私が嫁いでしまうと護衛の任も解かれるかもしれません。そうなった時に、どんな仕事をしたいですか?」
「オレは、イーサントこくのだいそうすいになりたい! …です」
「大総帥になりたいなら、腕っぷしだけでは成れないわ。だから勉強するのよ。知識はあって困らないもの。一生物の宝よ! 夢を追うのは良いことだわ。でも、それに見合った努力も必要よ」
勉強の大切さが、ガリオンにも届いたのか静かに聞いている。
前世の記憶がなければ、私も勉強なんて好き好んでしたいとは思わなかっただろう。
楽な方に流れて、結果ブラック企業に勤めて過労死したのだ。
もっと勉学に励んでいれば、違った人生を歩んでいたかもしれない。
たられば話をしても無意味の堂々巡りなので止めよう。
空しくなる。
「アリーシャとガリオンは、私の護衛兼遊び相手になるわけだけど公の場以外はリリーと呼んで頂戴。私的な場所では敬語も不要よ」
「「え!?」」
「これから学友になるんだから堅苦しいのは抜き! でも、公の場ではちゃんと私を立ててくれれば良いから。外面はしっかり磨くのよ」
「あの! おそれながら、しめしがつかないとおもいます…」
段々尻すぼみになりながらも意見するアリーシャを褒めた。
「良い意見ね! 十三歳になれば、王立学園に入学する事になるわ。王立学園は優秀であれば平民でも入学できるのは有名ね。学びの園の中だけ平等になる。だからと言って礼を欠いて良いわけではない。学園は小さな国の縮図。人脈を開拓し、如何に優位に立ち振舞うかが試されるのよ。二人は順調にいけば私の幼馴染になるわ。私の護衛として王立学園に入学することになるから、外面の使い分けが出来るようにするのよ! 毎日仕事だと疲れるし、私も疲れちゃうわ。だから、公の場での振舞いと普段の振舞いは使い分け出来るようにするのよ。そうするだけで、後々役に立つもの」
「なるほど」
「じゃあ、ふだんはけいごなしでいいのか?」
「良いわよ! でも、一緒にマナーの勉強もするからね。是非とも外の面の皮は分厚くなりなさい」
巨大な化け猫を被るのよ!
「「はい」」
良いお返事ありがとう。
私と一緒にバーバリー伯爵夫人にイビリ……扱かれるのです。
これで私一人で苦行を強いられることはなくなった。
ヤッホーイと喜んだ。
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