第70話
「シャロンが殺されたのは、きっと僕のせいでしょう」
状況を話す間もなく、ラトレルが先にそう紡ぎ出した。目には悲壮感が漂い始め、頭を格子にゴンと叩きつけた。そのあまりの音に、ジゼルが悲鳴を上げたが、ローガンはじっと彼を見つめたまま微動だにしなかった。
「シャロンが実の妹だと気がついたのは、いつだ?」
「……彼女に文字を教え始めて、しばらくしてから。僕は、性格や顔立ち、体型まで母とも父とも似ていなかった。だから、母によく聞いていたんだ。“僕は別のおうちの子?”と」
ラトレルは力なく話し始める。顔はうつむいたままなので、ジゼルから表情はよく見えなかった。
「その度にものすごく怒られ、側近たちも目をそらしていた。聞いてはいけないことだったと気がつき、成長するにつれて言わなくなったけれど、疑問は増え続けていた。そんなとき、シャロンを見て、自分に似ていると思ったんだ」
「……だから、筆談を?」
「ええ。どうしても僕は、彼女と話がしたかった。そして、みんなに内緒で、シャロンに読み書きを教えた……そんな時だった、シャロンが母親の遺言を教えてくれたのは」
遺言、とジゼルは耳をそばだてた。
「“あなたには、お兄ちゃんがいるのよ。生きていれば、どこかできっと会えるわ。でも、これは誰にも秘密、誰にも言ってはいけない。でも、お兄ちゃんは、生きているの……王宮のどこかで”」
それが、遺言だったそうだ、とラトレルは息を吐いた。
「母親は、子どもを連れて行った人々が王家の人だと気がついていたってことか?」
「金貨を出した時の入れ物に、側室の紋章が入っていたのを母親が偶然に見たのだとか。それで、自分の息子は、王子になったんだと気がついた、と」
ローガンはなるほど、とうなずいた。どんなに隠し通そうとも、人が行った事には必ず痕跡が残る。わずかな物でも、こうして繋げて行けば、真実にたどり着けるのだ。
「じゃあ、ウェアム王妃の最初の子どもは……?」
ジゼルの問いに、ラトレルが顔を上げた。そこには悲しみよりも苦渋が滲んでいた。
「分からない……その時の子どもを取り上げた助産師も乳母も、もういないので」
「殺されたな」
「え!?」
ローガンの物騒な相槌にジゼルが思わず声を上げると、ラトレルが「おそらく」とうなずいた。ジゼルは余計に寒気が襲ってきた。
「シャロンの両親が、殺されなかっただけマシだ。母親を殺さなかったのは、子どもはやっぱり母親が分かるから、何かあったときのための保険だろう。父親は代わりに舌を切られたわけだからな」
ジゼルはあの恐ろしい口内を思い出して、ゾッとする。思わず自分自身を抱きしめて震えた。
「シャロン……僕のせいだ。僕が、読み書きを教えて……法律書なんかの写本を手伝わせたりしたから」
その一言に、ジゼルとローガンは顔を見合わせた。
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