第63話
いったんはその場で解散になり、また夜に話し合おうという事になったが、それでもジゼルは腑に落ちない部分と、納得できる部分とが交差した。
「女王様が、自分の息子に毒を盛る理由は、本当に自分が女王陛下になりたいからなのかしら?」
「さあな。女王にそれは聞きたいところだ。カヴァネルが法律原本見てくるんだから、それが女王の都合のいいように書き換わっていたら、限りなく女王は黒に近いな。だととすれば……ラトレルの幽閉や政略結婚には納得できるし、王位継承権を持つジェフリーが邪魔だから毒殺するという動機にもなる」
「でも、ジェフリー王子が玉座に就ければ、自分が裏で操作することは可能でしょう? わざわざ、毒を盛るなんて」
ローガンはそれに眉根を寄せて、「全部欲しい欲張りなら、王位継承権を持つ者すべてが邪魔になる」と吐き捨てるように言った。
「でも、シャロンを殺す理由がないもの……」
「シャロンは、何かを知っていたんじゃないか?」
ローガンのそれに、ジゼルは彼の顔をまじまじと見つめた。
「何かを知っていて、それで、殺されたってこと?」
「ああ。それも、シャロンがしゃべれることや、王家のネックレスを持っているという秘密を知っている者にだ」
ジゼルは王宮内に渦巻く不気味な何かを感じ取って、寒気がぞわぞわと押し寄せてきた。
「……シャロン、何を知っていたんだろう……?」
「もしかしたら、女王は白かもしれないな」
今さっき黒だと言ったのに、とジゼルは眉根を寄せる。
「どういうこと?」
「誰かが、この連続殺人を、女王が企てているように見せかけているってことだ。だから、女王が本物の王になるのに都合のいい人物を消すのを隠れ蓑にして、シャロンのような何か秘密を知っている人物を消している、という事だよ」
ジゼルはそれにさらに寒気を覚える。
「じゃあ、黒幕が他にいるってこと?」
「女王が犯人じゃないのであれば、そういう事になるな。でも、何のために、誰がというところが分からない」
ローガンの声は落ち着いているが、表情は硬い。視線は一点を見つめたまま、考え事をしているようだった。
「シャロンが何故殺されたのか、誰に殺されたのか。これが、最も重要なカギになるはずだ」
ジゼルは何か思い出せることがないかと、今まで描いたデッサンの山へと向かい、一枚一枚見ていく。そして、今朝がたにローガンが取り出した二枚の絵を見つけて、背筋がゾッとした。
「ローガン、ちょっといい?」
そこに描かれたシャロンの父親と、ラトレル王子の紙を重ね合わせる。窓際に持って行って、日の光に透かせながら見てみると、それは驚くほどに似通っていた。
「この二人、ただ似ているだけじゃない、骨格が似ているんだ……!」
ジゼルは木炭を取ってくると、ラトレル王子を描いたそれに陰影をつけ始める。どんどんと描き加えられていく陰影や皺を見て、ローガンは絶句し、ジゼルも固まった。
「ラトレル王子に年月を重ねたように見せる、皺やくぼみを描き加えたんだけど……」
「すごいな……これじゃあ、まったく同じだ。髪型が違うだけで、こんなに似ることってあるのか?」
「顔が誰かに似ている、っていう事は結構ある。だけれども、骨格までもがこうも同じというのは……親族か血縁か」
「もしこの二人が血縁関係にあるとしたら、ラトレルの父親はシャロンの父親で……つまり、シャロンは、ラトレルの妹ってことか?」
二人してその絵を眺めながら、結論付けるにはまだ早いにしても、何か引っかかりを覚えていた。そして、それは事件の解決へと導く、何か重要な手掛かりのように思える。
「もしそうだとしたら、私たちの知らないところで、とんでもないことが起きているとしか思えない。だって、つまりラトレル王子は、先王の血を引き継いでいないという事になるわ」
「ああ」
探るしかない、とローガンが唇を引き結んだ。
「シャロンの親父さんのところに、もう一度行くぞ」
それにジゼルは大きくうなずいた。
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