第5章

第64話

 シャロンの父親に、会いたいという旨の書簡を書いている暇も惜しかったのだが、現在ジゼルは王宮で勤務する身。何かあるといけないので、やはり外出時には届け出が必要だった。


「まあ、お使い程度なら俺が一緒に行くって言えば大丈夫なんだけどな。それだとシャロンの墓参りもできないし」


 ローガンはひとまず、急いては事を仕損じると判断し、正当な手順を踏んでからシャロンの父親に会いに行く手筈を整えた。そうでなければ、勝手に抜け出して万が一のことがあっても困る上に、こそこそ抜け出してジゼルの素性などが露見するもの困る。


 すぐさま書簡を飛ばしたあと、夜になってすぐに来た返事に安堵したのもつかの間。渋い顔をしたカヴァネルが部屋に入ってきたことによって、何かがあったことはすぐさま理解できた。


「浮かない顔してるな、カヴァネル」


「――遅かったです」


 ローガンの声に、カヴァネルは頭を掻いた。


「すでに、法律関係の原本は消失していました」


「写しは?」


「各法務関係者が持っていますが、女王派閥ですから、口裏を合わせられればそれまでです」


 二人のやりとりに、ジゼルも苦い顔をする。


「いつ無くなったのか、定かではないです。持ち出された記録もないし、誰が入退室しているかも見てみましたが、法務関係者しか入っておらず……」


「誰が犯人というよりかは、全員がグルと言った方がいいな」


 おそらく、とカヴァネルは相槌を打った。


「しかし、側室派閥も、もちろん出入りはしていたのです。ですから、どちらの誰が、とは言い切れません。それに、女王にとっても側室にとっても、王位継承権においては邪魔ですから」


 それにジゼルは首をかしげた。


「側室のウェアム王妃にとっても邪魔なんですか? だって、ウェアム王妃の方が先に、ラトレル第一王子を生んでいるのに」


「そうだな。第一王子を優先と書いてあるから……エスターが出てきたとなったら、玉座を渡さなければならない」


 ああ、とジゼルはうなずいた。王位継承権は、生まれた順であるから、後から生まれた子どもは、当然順位が下がる結果になる。


「どっちにとっても、法律は邪魔ってことなのね」


 どうにか三人で探ってきてはいたものの、これでは四方八方が手詰まりで、進展があったとしてもすでにその先を塞がれているようにしか見えない。


 どん詰まりとはこのことかもしれないと思いつつ、ジゼルはシャロンを思い浮かべた。


(シャロンに誓ったもん……必ず、犯人を見つけるって)


 ジゼルは大きく息を吐いて、意気消沈する二人の大きな男に向き直った。


「シャロンのお父さんが、何か知っているかもしれないですから。明日会えるし、落ち込むのはどうにもならなくなってからにしましょう」


 ジゼルは自分の描いたデッサンを、ぺらりと持ち上げる。そこには、シャロンの父親、そしてラトレル王子、さらにはシャロンが描かれていた。


「この家族が、秘密を握っているはずなんですから」


 ね、とほほ笑むと、二人とも困ったようにしながらも、口元を緩めたのだった。

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