第2話

会合も無事終わり、私はふう、と自室に入る。


イクリスは相変わらず寡黙でかっこいい。


会うごとに日増しにかっこよくなっていってる気がする。


背もどんどん伸びてきて、声も低くなって、筋肉もどんどんついてきて逞しくなっている。


その上顔は相変わらず整っており、正に非の打ち所がない。


「あんなのズルいわよ。」


私はボスン、とベッドにダイブして真っ赤になった顔を枕に埋め、足をばたつかせた。


「はあ、イクリスは一体私のことどう思っているのかしら…?」


私はぼそりと1人で呟く。



一方ユースウェル家にて。


アイザックが部屋で本を読んでいると、コンコンとノックが聞こえてきた。


「入っていいよ。」


相手は名乗らなかったが、どうせ兄のイクリスであることは分かっている。


ガチャリと開けられた扉の向こうからは、案の定イクリスが顔を出した。


そして入ってくるなり、イクリスはいきなり膝からくず折れて地面に跪く。


「ヤバい…」


そうイクリスは呟いた。


俺はああ、またかという感じでしばらく様子を見る。


「メイが可愛すぎて辛い!」


「見たか!?今日の挨拶!めっちゃ微笑み可愛すぎて辛い!

今日のドレスも似合いすぎててヤバい!

話す時なんて目を見てくるから可愛すぎて直視出来ないのが辛い!

マジでメイは天使か?天使の生まれ変わりなのか?日増しにどんどん可愛くなってくよマジでどれだけ俺のライフを削ってくるのヤバい、心臓が持たない、多分100個あっても足りない。

本当に可愛いが過ぎて辛い。

同じ空間にいるだけで尊い。てか存在全てが尊い。生きてて本当に良かったでもあまりにも幸せすぎて死にそうマジでやばい助けて。」


そう意味不明な羅列を言いながらイクリスは顔面を真っ赤にして床に手をバンバンと打ち付ける。


「おい、床は壊さないでくれよ。」


俺はシレッと突っ込む。


メイ姉さんはイクリスと両想いになりたいと頑張っているが、その実は寧ろ引くレベルで愛されているのである。


ただ、イクリスが凄く恋愛に対して不器用なだけで。


「てか兄貴さ、メイ姉さんの前でもっと嬉しそうにしなよ、そんなんだからいつまで経っても片想いなんだろ?」


本当は両想いなのだけれど、お互いがそれに気付かないと意味がないし、何より、この状況を見てる側としては非常に面白いので、そこは黙っておく。


「しかしな、メイをいざ目の前にすると、緊張して表情筋が全て固まってしまうし、頭も真っ白になって、返事を返すだけで精一杯になるんだよ…」


「そんなうかうかしてると、この2年の間にメイ姉さんが他の男にとられかもなあ?」


そう俺が茶化すと、イクリスの顔は物凄く険しくなった。


「そんな、メイが、他の男と…」

「いや、しかし、メイの幸せを願わなくては…、メイが幸せなら、身を引くしか…」


物凄く眉間に皺を寄せて恨めしそうな顔で、ぶつぶつと呟くイクリス。


「いや、だからそうなる前に、早くメイ姉さんにアタックしろって話してんの!」


このやり取りももう何年だろうか?


いい加減、今年こそはくっついて欲しいと切に願うアイザックなのであった。

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