第30話

「ザッハトルテ、せっかくだから頂こうか?」

魔王はそう言うと従者を呼んで、紅茶とケーキの切り分けを頼んだ。

「ところでみのり、レミがよく貴方の家へ出入りしているようだが迷惑はかけていないか?」

「はい、魔王様。レミお嬢様には助けてもらっています」

みのりはそう言うと頭を下げた。


レミは得意そうに笑った。

「みのりのチョコレートは街でも評判になっている。といっても、ごく少数の貴族の間だけだがな」

魔王がそう言うと、王妃も頷いた。

「チョコレート、美味しかったですよ」

王妃がそう言ったとき、従者が紅茶とケーキを持って戻ってきた。


魔王、王妃、レミ、みのりの順に配膳されていく。

食器も飾り気はないが上質なものであるのが見て取れた。

「それでは、いただこう」

「いただきます」

みんなが一口食べて、お互いの顔を見る。

「美味しい!」

みのりはホッとして紅茶を一口飲んだ。


「みのりの腕前はたいしたものだな。人形も似ている」

魔王はそう言うと、もう一口ザッハトルテを口に運んだ。

王妃も頷いている。

レミも嬉しそうにしている。

「あの、魔王様、私は人間界に帰れるのですか?」

「それはレミの気持ち次第だ」

みのりがレミの方を見ると、レミは答えた。

「みのりは一生ここでチョコレートを作るのよ」


みのりが困って頭をかいていると魔王は言った。

「そのうちレミが飽きたら人間界に返してやろう」

紅茶を優雅に飲みながら、魔王と王妃の昔話が始まった。

ザッハトルテは好評だった。

紅茶とザッハトルテを食べ終わると、みのりは挨拶を終えて工房へ帰った。


「あーまだ帰れないのか」

みのりは一人つぶやきながら、王宮を後にした。

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