第29話
王宮は広かった。
レミはいつも気さくだったから、つい忘れがちだったけど王女様なんだと思い知った。
「みのり、緊張してるの?」
「うん」
みのりが素直に頷くと、レミは笑った。
「チョコレートを作るときはあんなに格好いいのに、借りてきた猫みたい」
レミの手には、昨日作ったザッハトルテがある。
魔王夫婦の結婚日の祝いの品だ。
チョコレート細工の人形も似ていると思うし、味にも自信があった。
「お父様、レミです。みのりも一緒です。入ってもよろしいですか?」
レミはそう言うと魔王の部屋の扉をノックした。
「おお、レミ。それとみのり、よく来たな」
魔王は本から目を外すとみのりを見つめた。
その眼光は鋭く、みのりは思わず身震いした。
「結婚20周年おめでとうございます」
「これは?」
「ザッハトルテというチョコレートを使ったお菓子です」
魔王は王妃を呼ぶと、二人で不思議そうにザッハトルテを見つめた。
「ね、美味しそうでしょ?」
レミはそう言って。魔王と王妃の手を取った。
「お父様、お母様、おめでとうございます。」
「ありがとうレミ。みのりもありがとう」
二人は礼を言うと、ザッハトルテを受け取った。
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