第28話

「ザッハトルテ?」

レミはみのりに訊ねた。

「それって美味しいの?」

「うん。杏のジャムを使って味付けするんだ。甘酸っぱくて美味しいよ」

みのりがコックコートに着替えながら、そう答えるとサブリナが質問した。


「杏って、マーケットで買ったオレンジ色の実ですか?」

「そうだよ。砂糖で煮詰めたものがジャム」

みのりはそう言いながら、ザッハトルテの材料を量りだした。

まず、ジャムを作ると部屋の中に甘酸っぱいいい匂いが立ちこめた。


「もう、美味しそう」

レミはそう言いながらクツクツと煮える鍋の中を見つめた。

みのりは真面目な顔で温度を測りながら、ジャムの出来合いを見定めた。

「こんなものかな」

みのりはそう言うと、清潔な瓶にジャムを詰めながら鼻歌を歌った。


「さてと、ザッハトルテを作るとするか」

みのりはカカオやグラニュー糖、薄力粉、メレンゲなどを混ぜ、予熱したオーブンに入れた。

「結構簡単なのね」

レミがそう言うとサブリナが言った。

「簡単に見えるけど、正確な軽量技術や混ぜ方が美しいです。さすがみのり先生」

みのりは照れながらも作業を続ける。

生地が焼ける。

生地を二枚にスライスすると、一枚にアプリコットジャムを塗った。


レミはみのりの手が美しく動くのに見とれていた。

生地を重ねアプリコットジャムがまんべんなくかかるようにみのりの手は器用に動いている。

チョコレートでコーティングして、ザッハトルテができた。

みのりはチョコレートで作っておいた魔王夫婦の人形をザッハトルテに乗せて冷蔵庫で冷やし始めた。

「さて、この暑さでどうやって王室まで運ぶかな」


みのりが困っていると、レミが上機嫌で答えた。

「私の魔力があれば、ひんやりと冷えたまま王宮まで運べるわ」

「ありがとう、レミ」

「私も勉強になりました」

サブリナはみのりの作業中メモをとりながら一人頷いていた。


こうして、みのりの特製ザッハトルテが完成した。

「さあ、明日はこのザッハトルテを魔王夫婦にプレゼントしよう」

そして、レミとサブリナは帰って行った。

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