第7話 王弟殿下のためのお菓子

「最近、殿下のために新作のお菓子を作ってない……」


 ある日唐突に、その事に思い至って。

 それなら今からでも遅くないと、早速私はレシピづくりに取り掛かる。


「どうせなら好きなものをお出ししたいし、そうなるとチーズは外せなくって……」


 むしろどうせなら、チーズを主役にしてしまってもいいとさえ思う。

 なにせ殿下の一番のお気に入りは、焼きチーズ。フライパンでチーズを焼くだけという、お手軽お菓子なのだから。


「チーズパイ……は、チーズケーキみたいになっちゃうかな?」


 いやでも、パイ生地にチーズを練り込んだら?それを食べやすいように細長く切って……。


「その上にさらにチーズを乗せて焼いたら、チーズ感もかなり出せるんじゃ!?」


 少しくどいかなとは思うけれど、でもきっとクリスプ系が好きな殿下は気に入ってくれそうだし。

 それにほら、ワインとも合いそうじゃない?大量に作って都度焼くだけにすれば、いつでも簡単に美味しいお菓子が食べられる。

 焼きチーズもいいけれど、殿下はよくいいワインが手に入ったからって陛下と一緒に飲んでるし。

 その時のおつまみとして持っていってもらうなら、少し手が込んでる方が私としてもいいし。


「よっし!そうと決まれば、早速試作試作!」


 パイ生地はいつものように作るとして、練り込むチーズはどのくらいの量どの種類をどんな形で入れればいいのか。

 上にかけるチーズも、色々種類を変えてみようか。


「うふふ」

「妃殿下。私どもも何かお手伝いいたしましょうか?」


 女官の皆さんを呼んで、必要なものを持ってきてもらって。ちょっと上機嫌で一人笑っていたら、その内の一人から微笑ましそうに申し出られる。


「そう、ですねぇ……」


 とはいえ、分量を量ったりというのは自分でやらないと覚えられないし。

 でもせっかくの申し出を断るのも申し訳ないし。

 どうしようかなと、見回していたら。


「妃殿下は思う通りにお作り下さい。私どもは、許されるのであればお使いになった後の器具を片づけさせていただければ十分ですので」


 つまり、洗い物やら片づけは自分でやらないでね、と。たぶんそういう事。

 なのでこれは素直に頷いておくべきなんだろう。


「そうですね。そちらをお願いします」


 あくまでお願いとして、にこやかに微笑んで。

 申し訳ないなんて思うよりも、ありがたいと思っておく方がずっといい。だってそうじゃなければ、私は彼女たちの仕事を奪ってしまう事になるわけだし。

 それにこういう時は、ごめんなさいよりありがとうの方が嬉しいものだから。


「皆さんが手伝ってくれるので、いつも本当に助かっています。ありがとうございます」


 それを言葉にして伝えるのは、すごく大切な事。

 これができるかできないかで、きっと関係に差が出てくるんだろう。

 まぁ、王族の妃としてこれが正しいのかどうかは、また別問題なのかもしれないけれども。



 でも、まぁ。


 それとは別に。



「ん!?カリーナ!これは新しい菓子か!?」


 チーズと新作のお菓子という、最強の組み合わせを一目見た殿下が。

 それはそれは嬉しそうに、目を輝かせてこちらを見ていたから。


「最近新作をお出しできていなかったので、久々に作ってみたのですが――」

「成程成程。パイ生地にチーズをかけたのか。これは楽しみだ」


 少年のような目とは、きっとこういう状態を指すんだろう。

 淡いブルーの瞳が、それはそれはキラキラと綺麗に輝いていて。

 そして。


「んんっ!?」


 口に入れて咀嚼する殿下が、驚いたように目を見開いてこちらを見つめてくる。

 おそらくは、気付いたんだろう。


「これはっ……!!ただパイ生地にチーズをかけただけではないのか!!生地の中にも、別のチーズが練り込まれているな!?」

「はい、その通りです。パイ生地もそれに合うようかなりさっくりと仕上げてみたのですが、いかがですか?」

「良い!食感と良い香りと良い味と良い、何とも私好みだ!!」

「ふふふ。それなら良かったです」


 だってこれは、正真正銘王弟殿下のためのお菓子だから。

 殿下のことを考えて、殿下のために作ったお菓子。


「癒しの力も……何と優しくあたたかいのだろうか……」

「そう、なのですか?」

「あぁ。私の事を考えて、作ってくれた菓子なのだろう?」


 柔らかい視線に、慣れているはずなのになぜかどきりとしてしまって。

 ちょっと顔が赤くなっているのを自覚しつつ、それでも俯かない程度には小さく頷いておく。


「だからだ。だからこそこんなにも優しく、あたたかいのだ」


 嬉しそうに少しだけはにかんだ殿下の声のほうが、ずっとずっと優しくて。


「ありがとう、カリーナ」


 その言葉が、私にとっては一番嬉しかった。















――ちょっとしたあとがき――



 ずっとお菓子が出てきていなかったので、どうしても最後までに一度は出したかったのです。

 一応最後は執務室内でのやり取りなんですけれどね!セルジオは空気になり切っていますね!


 そして次回!いよいよ最終回です!!

 続編を書くのなら、最後はこれにしようと決めていたお話ですので!

 最後までぜひぜひ、よろしくお願い致します!!m(>_<*m))ペコペコッ

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