番外編~フェーリクスの一日~
僕の名前はフェーリクス。ドゥリチェーラ王国の国王陛下の甥で、将来のヴェレッツァ領の領主だと両親から言われている。
そして……。
「フェーリクス!今日は裏の森へ探検に行こう!」
僕よりも少しだけ年上の、髪と目の色がそっくりないとこはアルヴィーノ。将来の国王陛下。
の、はずなんだけれど……。
「ダメだよアルヴィーノ。また怒られるよ?」
「大丈夫!その時はその時だ!」
彼は確か、正しいものを選択できる能力があったはず。
にもかかわらず、時折こうしてどう考えても間違っているだろうとしか思えない選択を、わざと選ぶときがある。
そしてそういう時は、決まってこう言うんだ。
「経験しない事には分からないだろう?これも一つの学びの方法だ!」
…………はぁ……。
なんだか、父上たちがアルヴィーノをやんちゃって言ってる理由がよく分かるよ。
そして毎回毎回僕を巻き込むのをやめて欲しい。
「アルヴィーノ。どうして怒られるって分かっていて、ダメな事をするの」
「ダメな理由は自分で知らないと意味が無いだろう?」
そこで不思議そうに首を傾げないでくれないかな。
そもそも僕の能力を知ってるくせに、どうして言う事を聞いてくれないのか。
「ねぇアルヴィーノ?僕が止めてるんだよ?」
「怒られるのは承知の上!むしろフェーリクスがいるからこそ、どこへ行っても大丈夫なのではないか!」
「……はぁ」
言っても無駄なのは分かってるけど、その過剰な信頼はやめて欲しい。
確かにアルヴィーノが正しいものを選択できる能力を持つのと同じように、僕にも見たいと思う先の未来が見えるという能力があるけれど。
だからってそれを安全だと勘違いしないで欲しいんだけれどね?
「僕は行かないよ。イレーネとピクニックの約束があるからね」
「何だと!?それならイレーネも連れて、三人で裏の森でピクニックをしようじゃないか!」
「だから!行かないって言ってるでしょうが!!」
そもそもまだ小さいイレーネを、しかも女の子をどこに連れていくつもりだ!!
可愛い可愛いイレーネは僕や父上と同じ金の髪に、母上と同じ不思議な色合いの目を持つ、とても素直な女の子で。
あの子が僕の妹として生まれてきてくれて、本当に本当に嬉しくて。家族や使用人たちとみんなで、大事に大事に成長を見守っているのに。
「あのね!アルヴィーノ!」
「は、はい!」
「もしもそこでイレーネが怪我でもしたらどうしてくれるの!?王子だからって許さないからね!?」
僕の父上は王弟だから、僕にも一応王位継承権はあるけれど。正直そんなものはアルヴィーノに全て任せたい。
むしろ僕は、あの街並みも自然も美しいヴェレッツァ領を守っていきたいんだから。
僕の目標はヴェレッツァ領主になる事。父上も母上も、それで良いって言ってくださっているんだから。
「……フェーリクスは、時折叔母上みたいになるな」
知ってるよ!!
だって母上は、父上や陛下にもちゃんと言うべき事を言える、唯一の人だから。
そんな母上の姿が格好良くて、あんな風になりたいって思っていたから。
ちゃんとしないといけない時は、父上のように喋ることもできるけれど。わざわざ身内しかいない場所でまで、そんなことはしたくない。
アルヴィーノと違って、そこまでしっかりとした帝王学を学んでいないというのもあるのかもしれないけれど。
でもとりあえず、今はその事よりも。
「それは母上への悪口か?」
「違う違う!!むしろ似ているなという意味でっ!!それに私も叔母上の事は大好きだ!!」
「へぇ…?」
嘘は言わないと知っているけれど、それでも形式上は疑わしい目をして横目で見ていたら。
「ほぅ?その話、詳しく聞きたいものだな。アルヴィーノ?」
「っ!?!?」
「父上!!」
聞こえてきたのは、僕のもう一人の大好きな人の声で。
思わず振り返った先で、僕と同じ色の瞳をいつもより少しだけきつめに細めている父上が、アルヴィーノを見ていて。
「また何か悪さをしようとしていると、私の所に報告が来たのだが?どうやらフェーリクスだけでなく、イレーネまで巻き込もうとしていたとか?」
あ、これ。どこかで会話を聞いていた小鳥たちが、きっと動けない陛下に連絡したんだ。
で、父上がすぐに動いて注意をしに来た、と。
母上が一緒じゃないのは、イレーネと一緒にお菓子作りをしているからとかかな?
「折角可愛らしい料理人たちが、楽しそうにピクニックの準備をしていたというのに……」
あ、やっぱり。
しかもその様子を微笑ましく見ていたのに、呼び出されて邪魔されたんですね、父上。
確かにそれは、怒りたくもなるなぁ……。
といいますか、父上。
どうしてその場に、僕を呼んで下さらなかったのですか。
可愛い妹の頑張る姿は、僕だって逃さず見ていたいのにっ!!
「そ、その……」
「言い訳など無用だ。暇ならばもう少し学べるだろうと、教師に進言しておいてやろう」
「あああぁぁ!!お願いですからやめてくださいぃ!!」
ねぇ、アルヴィーノ?いい加減、学ぼう?
毎回同じやり取りをしてるって、気付いてるよね?
そのたびに課題を増やされてるって、分かってるよね?
「フェーリクス。先に部屋に戻っていなさい」
「はい!父上!」
僕がアルヴィーノを止めていたという事も、きっと父上は聞いて知っているんだろう。だから先に僕だけ解放してくださったんだ。
「あぁ!!ずるいぞフェーリクス!!」
「アルヴィーノ?」
「はいいぃぃ!!!!」
正直、怒ると怖いのは陛下よりも父上の方だと思う。
軍人だし、冷徹だし。
でもね、アルヴィーノ。
父上は、ちゃんとアルヴィーノの事も心配してくれてるんだよ?
「今日のピクニック、アルヴィーノと伯母上も一緒に来ることになりそうだなぁ」
呟いたのは、未来を見たからじゃなく。
きっとそういう風に話をまとめるんだろうと、何となく今までの経験で分かっているから。
「……あ。陛下だけ参加できなくて拗ねるから、何か対策考えておかないと」
でもその辺りは後で未来を見ながら、父上と母上にお任せすればいいか。
元々はアルヴィーノのせいなんだし、押し付けてもいいかもね。
なんて、父上に似た打算的な部分で結論を出しながら。
アルヴィーノの無茶を止めつつ、振り回されたあげく怒られるという一日を回避した喜びを、そのまま足取りに乗せて。
僕は可愛い妹が頑張る姿をこの目に焼き付けるため、少しだけ急ぎ足で部屋に向かうのだった。
――ちょっとしたあとがき――
普段はアルヴィーノに振り回されているフェーリクス。
頑張れフェーリクス!大きくなったらヴェレッツァ領が君を待っている!!
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