第2話 陰の功労、者?

「さぁ、着いたぞ」


 あのまま目的地まで二人の毒吐きが止まらないのかと、ちょっと慄いていたけれど。実際にはすぐ目の前に、指定されていた開けた場所があって。結局話が続くわけではなかった。

 ちょっと安心。


「兄上?わざわざこの場所まで私達だけを呼び出したのは、先ほどの話をするためではありませんよね?」

「まぁそう焦るな。言ったであろう?お前たちに紹介しておきたくて、と」


 私たちに笑いかけた陛下は、そのまま肩にとまらせていた先ほどの小鳥に。


「呼んできてくれるか?」


 そう一言声をかけて。


「ピィッ!」


 小鳥も小鳥で、心得たとばかりに翼を広げてどこかへと飛び立っていく。

 それはさらにこの場所の奥深くで、果たして陛下が呼んできて欲しい人物とは一体どんな相手なのか。



 そう、思って。


 身構えていたのに。



「来たか」


 聞こえてきた馬の足音にそちらを見れば、なぜか誰も乗っていない茶色の馬が二頭。こちらに真っ直ぐ向かってきていた。

 まるで先導するように、先ほどの小鳥が先頭を飛びながら。


「んん……?」

「まさか、兄上……」


 意味が分からない私とは対照的に、何かを察したらしい殿下。

 どういうことだろうと、その殿下を見上げるより先に。


「はっはっは、そのまさかだ。紹介しよう。私のティッツィーの兄弟馬で、兄のサントーニオと妹のサリーだ。ティッツィーが末の弟になる」


 ティッツィーというのは、陛下の愛馬である白馬のこと。ちなみに正式な名前はティツィアーノ。愛称がティッツィーというわけ。

 私はさすがにまだそこまで仲がいいわけじゃないので、普段はティツィアーノ君と呼んでいる。

 まぁ、陛下は滅多にティツィアーノ君に乗らないらしいけれど。その分時間がある時にこまめに会いに行ってるらしい。

 国王陛下だからね。乗ってる暇すらないからね。仕方ないけどね。

 でも時折、寂しいってティツィアーノ君が零しているらしい。陛下がちょっとそれで落ち込んでたこともあるし、本人がそう言ってたからまず間違いない。

 本当に陛下の能力って、便利だと思うよ。


「ん?あれ?兄弟……?」


 陛下に紹介されたサントーニオ君は全体的に濃い茶の毛色に、たてがみと尻尾と足元が黒。頭にひし形の白いマーク。サニーちゃんは、ほぼほぼ全て茶の毛色で、唯一額から鼻筋に一本の白い線が通っている。あ、足先も靴下を履いているような白だった。

 けど……。


「私のティッツィーは、家系内唯一の白毛なのだ。美しく珍しいからと、ヴェレッツァの王族から贈られた特別な馬だ」


 なるほど。だから兄弟なのに毛色が全然違ったのか。


(って、納得してる場合じゃなかったよね!?)


 普通に疑問が解決したから、一瞬流してしまいそうになったけれど。

 今、陛下……!!


「なるほど。その二頭は、ヴェレッツァの馬だと」

「しかも王族の、な。まぁ、サリーは結局主人を背に乗せたのは数えるほどだったらしいが」


 いやいやいやいやっ……!!待って待って!待ってください!!

 その話の流れからして、つまりそれって……!!


「カリーナ。どうやら彼らの本来の主人筋にあたるのは、君のようだな」

「納得する以前に、私が混乱しているのをくみ取って頂けませんかね!?」

「混乱、と言うよりは……急すぎる事態について行けていないだけに見えるのだが?」

「それが分かっていていきなりさっきの言葉出てきます!?」


 あぁ、どうしよう。久々に殿下との温度差が凄い。

 というか、むしろなんでこの人こんなに冷静でいられるかなぁ?


「サム、サリー。話していたお前たちの主人だ」


 いやいや、陛下も随分と我が道を行くお方ですね!?

 というか、サムってサントーニオ君の愛称ですか?陛下は愛称で呼ぶのが本当にお好きですね!


「特にサリー。彼女はお前の本来の主人の娘にあたる。その意味、分かるだろう?」

「っ…!!ブルルッ!!」

「そうだ。それにヴェレッツァの血が途絶える事は無い。既に彼女は私の弟と婚姻を結んでいるからな」

「ヒヒーンッ!!」

「ブルルルルッ!!」


 全然、全く、何を言っているのか欠片ほども分からないはずなのに。

 なぜか、ものすごく喜んでくれているのだけは伝わってきて。


「ちなみにこの二頭が、今回のアグレシオン滅亡の陰の功労者だ」


 陰の功労、者?功労、馬?

 いや、というか……。


「兄上、一体この二頭に何をさせたのですか」

「いや何、簡単なことだ。優秀な二頭を王が逃げる際に使うのは予想出来ていたからな。ある程度進んだ先で、馬車から振り落とせと指示を出しておいた」


 暗躍してるーー!?!?

 え、陛下とこの子たちって連絡とり合ってたの!?あ、いや。鳥たちに伝言をお願いしてたとか?

 いやいや、でもそうじゃなくって……!!


「兄上……」

「そう呆れたような顔で見るな、フレッティ。何より二頭が狙われては困るからな。あのままでは馬車ごと命を奪われていたかもしれぬではないか」


 人間はどうでもいいけど、馬は大事なんですね。

 いや、まぁ……真実を知った今となっては、大変ありがたいですし感謝していますけれども。


「……頑張ったのね、あなたたち」


 なんとなく、労っておくべきだろうと思って。

 そっと手を伸ばして、二頭の鼻先を優しくかいてあげた。


 気持ちよさそうに目を細めた姿が、とてもかわいかったです。

















――ちょっとしたあとがき――



 実は馬が一番の立役者だった、というオチ(笑)

 ちなみに二頭の色のイメージで分かりやすいのは、サントーニオはディープインパクト、サリーはミホノブルボンでしょうか?

 某ソシャゲじゃないですよ?本物の方ですよ?

 競走馬は全然詳しくないのですが、イメージに合う画像を検索している中で最も近いかなと思った二頭です。

 ただこの子たちは競走馬ではないので、筋肉のつき方はかなり違うとは思いますが(^^;)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る