おまけ⑤ ~ドゥリチェーラ王の執念~

第1話 毒を吐く兄弟

 お城と宮殿の間には、美しく広大な庭園が広がっているけれど。宮殿の後ろ側には、森かと思うような場所が広がっている。

 実際人が手を加えて作った場所ではなく、元々そこにあった緑をそのまま残して少しだけ整備をしているのだとか。

 ちなみにこの場所は野生生物が生息しているのと同時に、お城や宮殿にいる王家の馬や犬たちを自由に遊ばせてあげるための場所らしい。

 初めてそれを聞いた時には「さすが王族。贅沢だな」と思ったものだけれど。


 その、ある意味裏庭のような場所に。

 殿下がアグレシオンを元ヴェレッツァのお城から追い出した数日後、陛下から呼び出されて二人で足を踏み入れていた。


「陛下がわざわざこんな場所に来るよう指示されるなんて、珍しいですね?」

「そうだな。しかも私的な理由だから護衛も供も入り口に置いてこいなどと、兄上にしては不用心なことを」


 そもそも一番そういったものを警戒しないといけないはずの人が、邪魔だから置いてこい、なんて。

 しかもわざわざ伝言じゃなく、誰もが確認できるよう手紙という形で、なんて。

 いくら動物たちと会話が出来て味方にできるからって、本当に殿下の言う通り不用心だと思う。


「何。下手に知られては困るからな」


 指示されていた場所に着くよりも前に、緑の中から陛下の声が聞こえてきて。前方から、普段とは違いラフな格好の陛下が現れる。

 その格好は殿下と同じ、白のシャツに黒のスラックスという休日仕様。

 どうにもドゥリチェーラの王族男性は、こういったシンプルな格好を好むらしい。そのくせそれだけで十分絵画的な映え方をするものだから、本当に美形というのは羨ましい。


「兄上。このような場所でお待ちいただくのであれば、入り口でもよかったではありませんか」

「それだと小鳥たちの報告が聞けないだろう?能力の全てを知るのは、王族だけで良い」


 そう言いながら降りてきた小鳥を、手を差し出して指先にとまらせる。

 その姿は本当に、一枚の絵画のようで。


(美形っ……!!美形だから許される光景ですよ陛下!!)


 内心ではそう思うものの、決して口にも顔にも出さない。

 なにが悔しいって、私が同じことをしてもここまで絵にはならないのに、殿下だったら絵になるだろうってこと。

 この美形兄弟は、時折無意識に敗北感を与えてくるから怖い。


(まぁ、もうさすがにそれで落ち込んだりはしないけど)


 結婚当初は、正直女として今のままじゃダメなんじゃないかと落ち込んだこともあった。

 ただそれを正直に王妃様に話したら、ドゥリチェーラの王族に嫁いだ女性は全員そう言うものよと笑っていたから。

 たぶんこの国では、昔からそうだったんだろう。それこそ本当に、建国時代英雄様に嫁いだ女性の時から。


「報告が必要なほどの内容なのですか?」

「半分ほどは、な。残りの半分は、お前たちに紹介しておきたくてといった所か」

「紹介?」


 殿下と私、二人で首を傾げれば。途端いたずらっ子のような表情で、陛下がついてこいと私たちを促す。

 それに二人して顔を見合わせて、けれど考えても理由は分からないので、素直についていくことにする。


「既に聞いているとは思うが、アグレシオンが滅んだ」

「はい、聞き及んでおります」

「まぁ、最終的に王族をこの手で討ち取れなかったのは心残りではあるが……。あの国がなくなったことは、素直に喜ばしいな」


 わぁ~……。珍しく陛下が毒舌だぁ~……。

 そんなに嫌いだったんだ、あの国のこと。


「兄上がそのような些事に関わる必要などありません。玉座に悠々と腰かけたまま、報告を受けるだけで良いのです」


 …………あれぇ~~……?なんか、殿下もちょっと毒吐いてませんかねぇ……?

 なんなの?今日この兄弟なんなの?ちょっと怖いんだけど?


「だがそれでは恨みが晴らせぬではないか。かたき位討ち取らせてくれても良いのではないか?」

「それを喜ぶようなお相手でしたら、ね。ですが兄上からお聞きしていたお人柄から鑑みるに、そのような事を望む方では無い様に感じておりましたが。違いましたか?」

「…………フレッティ……。お前は時折、的を射すぎてその先にまで打撃を与えるな……」

「ですから些事だと申し上げているのです。何より大切なのは、これからの未来なのですから」

「それはそうなのだがな。困った……弟に諭されてしまった」


 え、いや。それよりも途中までかなり物騒な内容だったんですけど?そこには一切触れない感じ?

 むしろこちらが触れていいのかすら分からなくて、すごく困るんですけど?



 毒を吐く兄弟二人に、状況が何も分かっていない人間が一人。

 はたから見たらどう映るんだろうと頭の片隅で考えながらも、ここは黙って二人の後をついていくのが賢明だろうと。

 とりあえず、話題を振られるまで口は閉じておこうと決めた。




















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