番外編2 ~元我が家~

『いやぁ~~……やってくれたねぇ』

「あ、そこは"流石レオの子孫!!"とは言わないんだ?」

『え、だってそこは当然でしょ?ドゥリチェーラの名前を持っているのに、出来ないわけがないからね!』


 その絶対の自信と信頼は、本当にどこから来るのか。

 いやまぁ、確かに今回のあの坊やは特別だけれども。


「ま、さすがに元我が家だからね。ちゃんと配慮して血を流さないでくれていたのには、感謝しないと、かな?」

『だね。そうじゃなかったら、きっと今頃問答無用で全員排除だったよ』


 逃がしたのは、決して慈悲なんかじゃない。むしろあの場で命を刈り取ってしまった方が、きっとアグレシオンにとっては救いですらあった。

 それを分かっていて、あえて逃がしたのもあるんだろう。城の中を汚さないようにというだけが、きっと最大の理由ではない。


『ま、僕たちの子孫の救出が大前提の行軍だったわけだし。あの子が凄惨な現場を見なくて済むようにっていうのもあったんだろうね』

「むしろそれが一番の理由じゃない?あとは、まぁ……今のドゥリチェーラの王が、かなり色々工作してることに気付いていそうだし」

『それは確かに。あの兄弟、そういう所は何も言わなくても意思の疎通が出来ててすごいよね』


 いや逆に、それだけ仲がいいのならちゃんと言っておきなさいよと思わないわけでもないけれども。

 まぁ、その辺りはよそ様のお宅だからね。口出しはしませんよ。

 とはいえ、まだ私は彼らの前に姿を現せないので。口出しなんて、したくても出来ないんだけど。


『でもとりあえずこれで、ようやく元我が家も綺麗にしてもらえるかな』

「ここ最近はずっと荒れ放題だったもんねぇ……。せっかく揃えた調度品とか、ちゃんと手入れされてなくて大変なことになってそうだけど」

『鏡とかは、もしかしたら手遅れかも。金属よりも陶器を多くそろえてたから、そっちは割れてさえいなければ大丈夫だとは思うけど……』

「今後はドゥリチェーラ領になるんでしょ?だったらその辺りもちゃんとしてくれそうだから、そこは心配してないかな」


 むしろ汚れたり破れたりしてる絨毯類とか、総取っ換えしてくれそうだし。

 長い間住んでいないとはいえ、やっぱり思い出も多いし何より自分たちで一から作り上げた思い入れのある場所だから。

 綺麗にしてもらえるのなら、ぜひともお願いしたいところ。


『あ。でもせっかく頑張って考えた国旗、なくなっちゃうね』

「それは……どうかなぁ?領地になって治める貴族にもよるかもしれないけど、今のままなら運命の子供たちの子孫になるんじゃない?」

『ん……?ってことは、その家の紋章として復活する可能性もあるのか』

「むしろ今のドゥリチェーラの王なら、初めからそれすら織り込みそうじゃない?なんかあの子、妙にヴェレッツァにこだわりあるみたいだから」

『仲良かったからねぇ……』


 王子同士が本当に仲が良かったというのも、私たちのような国の成り立ちだからこそだろうけど。

 でも確かに、あの二人は仲が良かった。年齢差がかなりあったにもかかわらず、そんなこと一切感じさせなかったくらいだからよっぽどだったんだろう。


「さすがに薄氷花は表に出せないものだし、ヴェレッツァを極力残したいって考えてくれてるならきっと大丈夫よ」

『確かにね。あの花は公表できない特別なものだから』


 国としてある程度整った後に、レオが残して行った花だから。特にそれを見える形で残しているものは、本当にごく僅かだけれど。

 今思えば、きっとそれでよかったんだと思う。

 あれを国旗になんてしていたら、今頃アグレシオンに消されていただろうから。

 そういう意味でも、印章だけに留めておいたのは本当に正解だった。血眼になって探されても困るし。


『で?会いに行くまでもう少し時間あるんでしょ?どうする?』

「そうだなぁ……とりあえず、一回聖地の様子だけは見ておきたいかなぁ。その後他のところも見て回るか考えるよ」


 先にドゥリチェーラ領になっていたあそこは、きっと他のところと違って笑顔が溢れているはずだから。

 けどそうじゃない今の現状を見ておくのも、きっと私たちには必要なことだと思う。

 それが、最初の王族の義務でもあると思うから。


『じゃあまずは見つからないように、夜にでもこっそり行こうか』

「そうだね。それまではどっかで時間潰す?」

『いいね。久々にデートでもする?』

「この辺りの飲食店はやってないよ?」

『ドゥリチェーラでも僕はいいよ』

「女一人で飲食店かぁ……。我が夫は高難易度の依頼を出されることで」

『じゃあ湖にする?自然は壊されてないはずだし』

「そっちに賛成ー」


 こういう時は、フィルが他の人に見えないことが面倒だなと思わないわけでもないけど。

 まぁでも、私にとってはどっちでもいい。


『ほらビー、行こう?』

「はいはい」


 空中散歩を楽しみたいのか、手を繋ぎたがるので握り返せば。

 彼が生きていた頃と同じ温度と感触が伝わってくるから。


(ま、いっか)


 嬉しそうな後姿に、ちょっとほっこりとしながら。

 久々のデートを楽しむためにその横に並んで、ゆっくりと目的地に向かい始めたのだった。



















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